硫化水素(H2S)とポリサルファイド(H2Sn、n≧2)は多様な組織で様々な生物作用をもつ新規シグナル分子である。その作用機構として蛋白質のシステイン残基の過硫化による蛋白質の機能調節が提唱されているが、その詳細についてはまだわかっていない。 H2S、H2SnはMPST(3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素)により産生される。そこでMPSTの発現を減らすと、H2S、H2Snによる過硫化が減り結合型硫黄が減るという仮説を立て、MPSTノックアウト(KO)マウスと野生型マウスで結合型硫黄量を比較した。組織ホモジネートに還元剤を添加して結合型硫黄から発生するH2Sをガスクロマトグラフィーで測定したところ、MPST-KOでは野生型と比べて結合型硫黄のレベルが有意に低下し、仮説が正しいことがわかった。以前私たちは、MPSTを過剰発現させた細胞では結合型硫黄が増えるが、H2S、H2Snを産生できない変異型MPSTを過剰発現しても結合型硫黄が増えない、という結果を得た。今回の結果はin vitroの結果と一致し、MPST調節によるH2S、H2Sn量の多寡が、結合型硫黄レベルと直接相関することがわかった。 私たちは、以前H2S、H2SnがTRPA1チャネルを過硫化して活性を上昇させることを報告し、過硫化のターゲットとしてのTRPA1と、H2S、H2Sn産生酵素MPSTとの相互作用を予想した。今回の科研費助成期間中にTRPA1、MPST、TRPA1/MPST KOラットの作出を完了し、TRPA1とMPSTの関係の解明を開始している。KOラットでの低分子過硫化物質の測定、それらの制御について検討を進めている。
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