研究課題
免疫回避に重要な役割を担う免疫チェックポイント分子PD-L1のエピジェネティック因子による発現制御や細胞内動態の分子機序は未だ不明な点が多い。これまでに、低分子量G蛋白質Arf6を基軸としたシグナル経路(Arf6経路)が乳癌、腎癌及び膵癌等の浸潤・転移性に根幹的役割を果たしており、転移性乳癌細胞ではp53変異による細胞内メバロン酸代謝経路活性の亢進がArf6経路の活性化に関わる新規分子機序を報告した。昨年度の研究期間において、幹細胞性制御に関わるエピジェネティック因子EZH2がArf6経路因子及びPD-L1の遺伝子発現に関与すること、間葉形質を有する膵癌細胞においてKRAS及びp53変異によるArf6-AMAP1経路の高発現及び活性化がPD-L1の動態制御に関与すること、さらにArf6経路が免疫回避に関与する知見を得た。2018年度の研究期間では、1)EZH2によるPD-L1の発現制御に関わる候補分子の生化学的解析を行い、PD-L1の発現抑制に関わる分子の絞り込みを行った。2)間葉形質を有する膵癌細胞を用い、Arf6-AMAP1経路によるPD-L1の細胞内動態の分子機序を解析する目的で、様々な阻害実験を行った。その結果、メバロン酸経路阻害スタチン及びGGT-II 阻害(Arf6経路活性化阻害)、eIF4A阻害剤Silvestrol(Arf6 mRNA翻訳阻害)、mTOR阻害(AMAP1 mRNA翻訳阻害)は、いずれも細胞表面PD-L1が減少する結果が得られた。さらに、PD-L1の細胞表面への輸送に関わるRab familyについて解析を行い、候補分子を同定した。3)Arf6経路と免疫回避の分子機序を解析する目的で膵癌細胞のRNA-seq.解析を行い、候補分子の解析を進めた。これらの結果は、Arf6-AMAP1経路阻害が新たな癌免疫療法につながることを示唆する知見である。
2: おおむね順調に進展している
エピジェネティック因子EZH2によるPD-L1の遺伝子発現に関わる因子に関し、生化学的解析により候補分子の絞り込みを行ったこと、及び、Arf6経路によるPD-L1の細胞内動態に関し、様々な阻害実験を行うことでArf6-AMAP1経路阻害がPD-L1の動態制御に重要であり、標的となるシグナルを見いだしたことは、当初の計画通りである。さらに、Arf6-AMAP1経路と免疫回避との関連性に関する結果は新しい知見であり、当該研究分野の発展に資するものと期待される。
Arf6-AMAP1経路によるPD-L1の細胞内動態の分子機序に関する解析を継続して行う。PD-L1の細胞表面への輸送に関わるRab familyの詳細な細胞内動態制御並びに免疫回避との関連について検討する。また、研究の新展開を促進するためArf6-AMAP1経路による免疫回避の分子機序について解析を進める。Arf6-AMAP1経路を阻害した細胞のRNA-seq.解析より、Arf6-AMAP1が制御する因子に関し免疫回避との関連性について検討を行い、その分子機序について解析する。さらに、Arf6-AMAP1経路阻害とPD-1/PD-L1阻害抗体を用いた腫瘍形性能及び腫瘍組織浸潤免疫細胞に与える影響を解析し、新規癌免疫療法の可能性について検討する。
Arf6-AMAP1経路によるPD-L1の細胞内動態の分子機序及び免疫回避との関連に関し、網羅的解析を行うことを計画し、繰越を行った。また、Arf6-AMAP1経路阻害とPD-1/PD-L1阻害抗体を用いた腫瘍形性能及び腫瘍組織浸潤免疫細胞に与える影響を解析する動物実験に有効活用する予定である。
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