研究課題
タンパク質の恒常性維持(プロテオスタシス)は正常な細胞機能にとって極めて重要であり、その破綻が多くの疾患の分子基盤となっていることが明らかにされている。そのため細胞は、プロテアソーム阻害剤で細胞を処理した場合、プロテアソームサブユニット遺伝子群がフィードバック的に転写レベルで活性化する、プロテアソームバウンスバック反応が起こり、細胞内プロテアソーム活性を調節することが知られている。これを担う中心的な転写因子としてNRF1が知られている。転写因子NRF1は多段階でその活性が制御されることが知られているが、核内での活性化機構については明らかではなかった。そこで私たちは、NRF1の核内複合体の取得により、NRF1とOGT/HCF1複合体が結合することを明らかとした。OGTはタンパク質の翻訳後修飾であるO-GlcNAc化を施すO-GlcNAc転移酵素であるが、NRF1機能発現にO結合型糖鎖修飾(O-GlcNAc化)が必須であることを私たちは発見した。O結合型糖鎖修飾は様々な生物学的イベント(栄養状態、細胞周期、日周性、加齢)において、変動することが知られており、本研究では、とりわけグルコースなどの栄養状態でNRF1はタンパク質レベルで活性制御されることが明らかとなった。またがんにおけるプロテアソーム依存性を支える基盤がOGT-NRF1であることを明らかとした。多くのがんがプロテアソームの活性に、その生存を依存しているため、プロテアソーム阻害剤はプロテアソーム依存性がんの治療への治療が予想されるが、実際には多発性骨髄腫などの一部のがんに、その使用は限定されている。しかしながら私たちの発見は、OGT阻害が効果的に固形がんに対してもプロテアソーム阻害剤を使用できることを示唆する結果であった。
2: おおむね順調に進展している
NRF1複合体の新規構成因子の中で、プロテアソームーサブユニット遺伝子の活性化において、OGT複合体のより詳細な結合様式を明らかにすることができた。OGT/HCF1複合体のうちHCF1が直接NRF1に結合することを、大腸菌で作製したリコンビナントタンパク質を用いて示すことができた。さらにNRF1側のドメインについても決定し、Neh6Lと呼ばれる領域に結合することがわかった。これにより複合体結合の制御ができるようになり、NRF1とHCF1/OGT複合体との結合欠失変異体の作製に成功した。この変異体は、プロテアソームの活性化能を失っていた。またChIPアッセイにより、OGT/HCF-1複合体をノックダウンしたところ、NRF1のプロテアソーム・サブユニット遺伝子プロモーター上へのクロマチン結合が減弱することも明らかとした。また他のNRF1複合体構成因子についても、ノックダウン後の活性制御において重要であることを明らかとした。
OGT/HCF1複合体が、とりわけがんにおいてプロテアソームの転写活性に必要であることを明らかとしたので、さらに個体レベルでの検討を行っている。具体的には、OGT阻害によるプロテアソーム阻害剤の抗がん作用の増強を、Xenograftモデルにより明らかとしたいと考えている。さらにはデータベースを用いたOGTとプロテアソームサブユニット遺伝子群との相関も調べ、実際のがんにおけるOGT-NRF1-プロテアソーム経路について詳細に調べる予定である。
研究打ち合わせなど、今年は使用しなかった部分がある。しかしながら、30年度は、多くの研究打ち合わせ、マウス実験などを計画しており、さらなる予算使用が見込まれる。
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J Biol Chem
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