研究課題/領域番号 |
17K08622
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
秋山 伸子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (60342739)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胸腺髄質上皮細胞 |
研究実績の概要 |
自己応答性T細胞を除去する機構の破綻は、自己免疫疾患の原因となる。胸腺の髄質に局在する上皮細胞(髄質上皮細胞)は、胸腺で分化した自己応答性T細胞を除去し、自己免疫疾患の発症を抑制する。申請者らは最近、髄質上皮細胞に分化する前駆細胞を同定した。しかしながら、髄質上皮細胞への分化は、その前段階で決定される。本研究課題は、髄質上皮の前駆細胞への分化を決定する新たなマスター制御転写因子の同定を目指している。 これまで行った髄質上皮前駆細胞の遺伝子発現解析により、前駆細胞を含めて髄質上皮細胞で特異的に発現する転写因子Xを得た。そこで髄質上皮細胞の分化決定における転写因子Xの役割を解明するために、世界に先駆けて転写因子X欠損マウスを作製・解析し、髄質上皮細胞の分化における必要性を検証した。 まず、全身において転写因子Xを欠損するマウスを樹立した。転写因子X欠損マウスは、ヘテロマウス同士の交配によりメンデル則に従って生まれてきた。 次に4週齢雌マウスの胸腺を採取し、構造および細胞の構成について、転写因子Xの欠損による影響を検証した。免疫染色の結果、胸腺の大きさ、髄質および皮質の構造に大きな変化は見られなかった。さらにFACS解析の結果、胸腺細胞におけるCD4・CD8陽性細胞の分布、髄質上皮細胞と皮質上皮細胞の割合に変化は見られなかった。また、髄質上皮細胞における成熟マーカーCD80の発現にも影響は見られなかった。 一方、転写因子Xの欠損による髄質上皮細胞の発現変化を検証した。セルソーターにより胸腺上皮細胞を採取し、髄質上皮細胞の機能因子(Aire、組織特異的遺伝子など)の発現についてRNA-sequencing解析を行った。その結果、転写因子Xを欠損することにより、大きな発現変動は見られなかった。これらの結果は、転写因子Xは髄質上皮前駆細胞の分化に必須ではないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
髄質上皮細胞の分化決定における転写因子Xの役割を解明するために、転写因子X欠損マウスを作製・解析し、髄質上皮細胞の分化における必要性を検証した。その結果、転写因子Xは髄質上皮細胞の分化に必須ではないことが明らかとなった。 一方、転写因子Xは類似したDNA結合ドメイン構造を持つ転写因子ファミリーに属する。この転写因子ファミリーに属するいくつかの分子が胸腺上皮細胞の分化時に発現上昇することを確認した。これら同一ファミリーに属する複数の転写因子が、胸腺髄質上皮細胞の分化にリダンダントに働く可能性がある。そこで、転写因子Xと同じ転写因子ファミリーに属する転写因子YのFloxマウスを導入した。転写因子XのFloxマウスも作成し、胸腺上皮特異的に転写因子XとYを二重欠損するマウスの系統樹立を目指した。 当初、このFloxマウスをFoxn1-Cre (Ex9-IRES-Cre)マウスと交配し、Cre-Floxシステムを用いて胸腺上皮細胞特異的に転写因子XとYを欠損するマウスを作出する予定であった。 しかし、ジェノタイピングの結果、全身で転写因子Xを欠損しているマウスが混入していた。この原因は、用いたマウスのFoxn1-Cre が、精原細胞期に発現し、オス由来のFoxn1-Creで全身欠損が起こることが明らかとなった。 そこで別系統のトランスジェニックFoxn1-Cre と交配を開始し、胸腺上皮細胞特異的に転写因子 X とYを二重欠損するマウスを作成することにした。このため、研究遂行までに想定以上の時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、転写因子Xは髄質上皮細胞の分化に必須ではないことが明らかとなった。これまでに転写因子Xは類似したDNA結合ドメイン構造を持つ転写因子ファミリーに属することが知られている。一方、この転写因子ファミリーに属するいくつかの分子が胸腺上皮細胞の分化時に発現上昇することを確認した。そこで、これら同一ファミリーに属する複数の転写因子が、胸腺髄質上皮細胞の分化にリダンダントに働く可能性がある。そこで、転写因子Xと同じ転写因子ファミリーに属する転写因子Yの欠損マウスを導入した。現在、胸腺上皮細胞特的に転写因子XとYを二重欠損するマウスを樹立し、解析中である。今後、この転写因子ファミリーの機能に着目して、胸腺髄質上皮細胞の分化を決定する因子を同定する。 一方、4週齢の雌マウスでは顕著な表現型はなかったものの、20週齢の雄マウスにおいて、解析した5例のマウス全てにおいて、末梢のリンパ節浮腫と外部生殖器における腫瘍形成が見られた。転写因子Xは、肺から樹立した培養細胞において、癌抑制因子として働いていると報告がある。この原因が胸腺髄質上皮細胞における転写因子Xの欠損によるものか検証する。そこで胸腺特異的にXを欠損する目的でFloxマウスを作成し、検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの解析の結果、転写因子Xは髄質上皮細胞の分化に必須ではないことが明らかとなった。転写因子Xは類似したDNA結合ドメイン構造を持つ転写因子ファミリーに属する。この転写因子ファミリーに属するいくつかの分子が胸腺上皮細胞の分化時に発現上昇することを確認した。これら同一ファミリーに属する複数の転写因子が、胸腺髄質上皮細胞の分化にリダンダントに働く可能性がある。そこで、転写因子Xと同じ転写因子ファミリーに属する転写因子YのFloxマウスを導入した。転写因子XのFloxマウスも作成し、胸腺上皮特異的に転写因子XとYを二重欠損するマウスの系統樹立を目指した。 当初、このFloxマウスをFoxn1-Cre (Ex9-IRES-Cre)マウスと交配し、Cre-Floxシステムを用いて胸腺上皮細胞特異的に転写因子XとYを欠損するマウスを作出する予定であった。しかし、ジェノタイピングの結果、全身で転写因子Xを欠損しているマウスが混入していた。この原因は、用いたマウスのFoxn1-Cre が、精原細胞期に発現し、オス由来のFoxn1-Creで全身欠損が起こることが明らかとなった。そこで別系統のトランスジェニックFoxn1-Cre と交配を開始し、胸腺上皮細胞特異的に転写因子 X とYを二重欠損するマウスを作成することにした。このため、研究遂行までに想定以上の時間を要した。
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