研究実績の概要 |
自己応答性T細胞を除去する機構の破綻は、自己免疫疾患の原因となる。胸腺の髄質に局在する上皮細胞(髄質上皮細胞)は、胸腺で分化した自己応答性T細胞を除去し、自己免疫疾患の発症を抑制する。申請者らは髄質上皮細胞に分化する前駆細胞を同定した(Akiyama N., 2016)。しかしながら、髄質上皮細胞への分化は、その前段階で決定される。本研究課題は、髄質上皮の前駆細胞への分化を決定する新たなマスター制御転写因子の同定を目指している。 これまで行った髄質上皮前駆細胞の遺伝子発現解析により、前駆細胞を含めて髄質上皮細胞で特異的に発現する転写因子Xを得た。そこで髄質上皮細胞の分化決定における転写因子Xの役割を解明するために、世界に先駆けて転写因子X欠損マウスを作製・解析し、髄質上皮細胞の分化における必要性を検証した。その結果、転写因子Xは髄質上皮細胞の分化に必須ではないことが明らかとなった。 一方、転写因子Xは類似したDNA結合ドメイン構造を持つ転写因子ファミリーに属する。この転写因子ファミリーに属するいくつかの分子が胸腺上皮細胞の分化時に発現上昇することを確認した。これら同一ファミリーに属する複数の転写因子が、胸腺髄質上皮細胞の分化にリダンダントに働く可能性がある。そこで、転写因子Xと同じ転写因子ファミリーに属する転写因子YのFloxマウスを導入した。転写因子XのFloxマウスも作成し、胸腺上皮特異的に転写因子XとYを二重欠損するマウスの系統樹立を行った。その胸腺を解析した結果、胸腺重量および細胞の組成には大きな変化が見られなかった。この結果は転写因子XおよびYは髄質上皮細胞の分化に必須ではないことを示している。
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