研究課題
多能性幹細胞は体のすべての組織に分化しうる幹細胞の一つであり、その性質によってイーブ型とプライム型の2種類に大別される。 げっ歯類の多能性幹細胞は「キメラ形成能」というユニークな性質を持つナイーブ型多能性幹細胞に属し、他の動物種の多能性幹細胞とは性質が異なる。我々は、このキメラ形成能によってマウスーラット間の異種キメラも作製できることを報告したが、一方で、ラットーマウス異種キメラのキメリズム(多能性幹細胞の異種組織への寄与率)は同種キメラと比較して胎生期においても成体においても低く、キメリズムのきわめて高いものは奇形があり胎生致死していた。これは異種環境内での多能性幹細胞の発生には限界があることを強く示唆しているが、多能性幹細胞が異種の発生環境内でどのような挙動を示すか(どこまで発生できるか)は全く明らかになっていない。そこで、本研究では異種環境における多能性幹細胞の寄与の限界(異種の壁)がどこにあり、どのような原因で限界に至るのかを明らかにすることを目的とした。これまでにラット→マウス、およびマウス→ラット異種キメラの様々な臓器におけるキメリズムを解析したところ、臓器ごとに寄与率が異なることが分かった。さらに、このパターンは異種キメラの種類によって異なっていた。同種キメラでは臓器ごとのキメリズムは有意な差は無いことから、異種環境における多能性幹細胞の寄与は臓器別に異なることが分かった。この結果は、組織ごとに器官発生に重要な細胞間相互作用に種特異性があることを示している。マウス→ラット、ラット→マウスの異種間テトラプロイドコンプリメンテーションを行った結果、どちらもE10.5付近で胎仔が消失または奇形になることが分かった。E10.5付近は胎盤形成期であり、胎仔発生に重要である母体と胎児または胎盤と胎児のコミュニ―ケーションにも種特異性があることを示している。
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