研究課題/領域番号 |
17K08624
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岩佐 宏晃 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (70582188)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 腫瘍抑制 / Ras / RASSF |
研究実績の概要 |
低分子G蛋白質であるRasは幅広い細胞内プロセスを調節することが知られている。これまでにRasに結合する蛋白質は数多く同定されており、その中にはRasの活性化制御に関わるものやRasの下流で機能するエフェクター分子などが知られている。Ras association domain family(RASSF)蛋白質はその名の由来通り、Rasに結合するエフェクター分子として機能すると考えられてきた。実際、ある細胞では構成的活性型のRasによって細胞死が誘導されることが知られているが、この過程においてRASSF蛋白質がエフェクター分子として機能することが報告されている。このため、RASSF蛋白質の機能は他のエフェクター分子と同様に、Rasを上流とする細胞内プロセスを調節することだけにあると考えられていた。しかし、この予想は誤りであったことを後に知ることになる。 RASSF蛋白質の共通する構造的特徴はRas結合性ドメインをもつことであり、同様の特徴をもつ蛋白質はヒトにおいて10種類存在する。さらに構造を細分化すると、RASSF蛋白質は共通してSARAHと呼ばれるドメインをもっており、ヒトではRASSF1~6までのファミリーとして存在する。先行研究ではRASSF1が最も進んでおり、Rasとは関わりのない細胞内プロセスにも作用することが報告されるようになった。当研究室ではあまり解析が進んでいなかったRASSF6に着目して研究を行ってきたが、RASSF1と同様の腫瘍抑制作用がRASSF6にあることを報告している。さらに、私たちはRASSF6にはRASSF1とは異なる生理活性があることを報告しており、世界のRASSF研究における独自路線として研究実績を着実に積み上げている。当該年度ではRASSF6と結合することを見出したRbとUNC119に着目し、その生理的意義について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
p53とRBは腫瘍抑制を司る分子として最も研究が行われているが、未だ解明しつくされたとはいえない。私たちはこれまでにRASSF6にはユビキチンリガーゼであるMDM2に作用してp53の安定性を増加させる役割があることを報告している。本研究では、RASSF6がRbに対していかなる作用があるかについて検証を行った。その結果、RASSF6には二つの効果があることが判明した。RASSF6にはRbとその脱リン酸化酵素との相互作用を橋渡しするスキャフォールド活性があることが示された。さらに、RASSF6がポリコーム群蛋白質複合体構成因子であるBMI1に作用し、ユビキチン化を促すことで分解誘導することが示された。この場合、BMI1の標的であるINK4A/B遺伝子座の脱抑制が起こり、CDK阻害因子であるp16の発現上昇によるRbの不活化といった一連のプロセスが誘導される。つまり、RASSF6にはRbに対して二通りの負の制御活性があることを意味している。本研究は平成30年にMolecular and Cellular Biology誌に報告された。 当研究室では、過去、酵母ツーハイブリッド法によってRASSF6と結合活性を有する蛋白質の同定を試みている。UNC119はそのうちの一つであり、本研究では、RASSF6の生理活性におけるUNC119の役割について検証を行った。UNC119はRASSF6と相互作用することによってRASSF6-MDM2-p53の経路を制御することが判明した。具体的には、UNC119の存在下でRASSF6とMDM2の相互作用はより頻度を増す。その結果、MDM2フリーとなったp53は細胞周期停止や細胞死を実行することになる。以上のことから、UNC119には腫瘍抑制活性があることを示唆された。本研究は平成30年にCancer Science誌に報告された。
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今後の研究の推進方策 |
RASSF6が細胞質に局在する蛋白質と相互作用する例が多いことから、RASSF6の活躍する場は細胞質であろうと考えてきた。しかし、本年度の現在までの達成度でも示したように、RASSF6は核内転写因子として機能するRbと直接的に作用することが判明したことから、RASSF6は細胞質だけでなく核内においても機能することが予想される。その一方で、私たちはRASSF6がRbとは異なるタイプの核内蛋白質と相互作用することを予備検討において見出している。この核内蛋白質はクロマチンリモデリング因子複合体の一つであることから、RASSF6がクロマチンリモデリング過程において何らかの制御に関与していることが予想される。今後、この仮説について検証する。 細胞内では、膜と細胞質を往来することで、蛋白質が適切な場で機能することを支える分子機構が存在する。その一つが蛋白質の脂質修飾による膜局在であり、これにはプレニル化やミリストリル化などが知られている。例えば、KRASの膜局在はプレニル化修飾によって行われる。この修飾部位に特異的に結合する蛋白質PDEdeltaは、KRASを膜から細胞質へと運び出すことでシグナル伝達を調整する。PDEdeltaと類似構造をもつUNC119は、プレニル化修飾ではなくミリストリル化修飾蛋白質と結合する。RASSF6には脂質修飾を受けるという決定的な証拠は見つかっていないが、UNC119と結合することで脂質修飾蛋白質の細胞内輸送にもRASSF6が関与すると私たちは予想している。今後、この仮説を検証する。
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