研究課題/領域番号 |
17K08625
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
福嶋 俊明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70543552)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インスリン / インスリン様成長因子 / インスリン受容体基質 / ユビキチン / がん / 糖尿病 / Nedd4 / USP15 |
研究実績の概要 |
代謝調節/成長促進に重要なインスリン/インスリン様成長因子(IGF)の細胞内シグナルは、インスリン受容体基質(IRS)を介して伝達される。申請者らは、「IRS2がモノユビキチン化を受けるとインスリン/IGFシグナルが増強する」という現象を見出し、さらに、IRS2のモノユビキチン化の過剰な減弱/増強がインスリン/IGFシグナルの過剰な減弱/増強を引き起こし、これが糖尿病やがんの発症や進行に寄与することを示してきた。また、ユビキチンリガーゼNedd4がIRS2をモノユビキチン化する、脱ユビキチン化酵素USP15がIRS2のモノユビキチン化を除去することも明らかにしていた。本研究では、IRS2のモノユビキチン化の制御機構を解析し、IRS2のモノユビキチン化量を調節することによりインスリン/IGFシグナルを修飾する手法を開発することを目的とする。 IRS2を脱ユビキチン化するUSP15のインスリン/IGFシグナルの調節に果たす役割は不明であった。そこで、2017年度は、前立腺がん細胞PC-3を用いてUSP15の発現抑制を行い、USP15がIGFシグナルを抑制する役割を果たしていることを確かめた。 IRS2をユビキチン化するNedd4は、細胞を低栄養条件で培養すると活性化することがわかっていた。Nedd4の活性調節機構を解明するため、低栄養条件でNedd4に結合するタンパク質を共免疫沈降-質量分析法を用いて解析し、複数のタンパク質の結合量が増加することを見出した。 今後、Nedd4やUSP15の結合タンパク質や分子修飾の解析を進め、これらの酵素の活性調節機構を解明し、IRS2のモノユビキチン化量の調節を介したインスリン/IGFシグナルを修飾法の開発につなげていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で示したように、USP15のIGFシグナルの調節に果たす役割は明らかにすることができた。具体的には、前立腺がん細胞を用いて、USP15の発現抑制により、IGF刺激に応答したIRS2のチロシンリン酸化が増強し、IRS2の下流で起こるPI3K-Akt経路やMAPK経路の活性化も促進することがわかった。一方、当初の予定では、USP15がインスリンシグナルの調節に果たす役割も、肝細胞H4IIEなどを用いて詳細に解明する予定であった。しかし、他の解析や論文投稿に多くの時間を要したため、こちらの解析を十分検討することができず、来年度以降に実施することとなった。そのため、進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
インスリン標的細胞として培養肝細胞H4IIEを用い、高栄養条件で培養することによりインスリン抵抗性を誘導した際の、USP15の脱ユビキチン化活性や発現量の変化を解析する。また、この細胞でUSP15の発現を抑制しIRS2のモノユビキチン化を増加させた時に、インスリンに応答した細胞内シグナルや糖代謝酵素の発現変化が回復し、糖放出が強く抑制されるようになるか検討する。このような解析から、USP15がインスリンシグナルの調節に果たす役割を明らかにする。 次に、栄養条件を変動させた際のNedd4やUSP15の活性調節機構を明らかにするために、結合タンパク質や分子修飾の変動をLC-MS/MSを用いて解析、変動が見られた結合タンパク質の過剰発現/発現抑制や、修飾部位への変異導入を行い、Nedd4やUSP15の活性に及ぼす影響を検討する。一方、Nedd4やUSP15の基質認識機構を明らかにするため、Nedd4やUSP15とIRS2の部分欠損変異体を用いた結合実験を進め、結合領域を絞り込む。 その後、明らかとしたNedd4やUSP15の活性調節機構や基質認識機構の知見に基づき、Nedd4やUSP15の活性化状態をモニターする系、Nedd4やUSP15と基質であるIRS2との結合を簡便にモニターする系を開発する。これを用いて、Nedd4やUSP15の酵素活性や基質結合を変化させる低分子化合物を探索する。 最終的に、これらの低分子化合物を用いて、IRS2のモノユビキチン化量を調節し、インスリン/IGFシグナルの強さを変化させることによりインスリン抵抗性を改善できるか、あるいはがん細胞の増殖を抑制できるか検討する予定である。成就すれば、全く新しい作用点で働く抗糖尿病薬・抗がん剤の開発に向けたシーズとして提案できる。
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備考 |
*と同じ内容は、東京大学農学生命科学研究科HP (http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2015/20150420-1.html)、および、広島大学HP (http://www.horpshima-u.ac.jp/news/show/id/22883)からも発信された。
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