研究課題/領域番号 |
17K08631
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山崎 大輔 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (50422415)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腸管上皮細胞 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究において、Mg2+トランスポーターCNNM4の遺伝子欠損により大腸の腸管上皮では増殖性で未分化な細胞が増えることがわかった。CNNM4を欠損した腸管上皮細胞では細胞外へのMg2+排出が抑えられるため、細胞内のMg2+濃度が上昇していた。大腸の腸管上皮細胞ではCa2+チャネルTRPV1により細胞の増殖が負に制御されていること、また細胞内Mg2+濃度の増加によりTRPV1の活性が低下することが報告されていたので、CNNM4が細胞内Mg2+量の調節を介してTRPV1の活性を制御している可能性が考えられた。そこでCNNM4欠損腸管上皮細胞においてTRPV1の活性を調べたところ、野生型細胞と比較して有意に低下していたことから、CNNM4が腸管上皮細胞におけるTRPV1の活性に必要であることがわかった。TRPV1はEGFシグナルを抑制することで過剰な細胞の増殖を抑えているが、CNNM4欠損腸管上皮細胞では細胞増殖におけるEGFの要求性が低下しており、培地中に含まれる血清の量を減らした場合でも野生型細胞と比較してより多くの細胞が増殖を維持していた。これらの結果からCNNM4はTRPV1を介してEGFRシグナルを負に調節することで、腸管上皮における過剰な細胞の増殖を妨げていると考えられる。実際、Cnnm4の遺伝子欠損マウスに対してEGFRシグナルの阻害剤であるgefitinibを投与したところ、腸管上皮における増殖細胞の数が有意に低下した。また、AOM/DSS投与時にCnnm4遺伝子欠損マウスで見られた大腸での腫瘍形成の促進は、gefitinib投与により抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究において、CNNM4が腸管上皮細胞の増殖性を制御していることがわかっていたが、CNNM4がどのような分子メカニズムで細胞増殖を調節しているかは不明であった。今回、CNNM4欠損腸管上皮細胞では細胞内Mg2+濃度の上昇に伴いCa2+チャネルTRPV1の活性が抑えられていたことがわかった。TRPV1はEGFRシグナルを負に調節することから、CNNM4により腸管上皮細胞内のMg2+濃度が一定に保たれることでTRPV1が正常に働き、過剰なEGFRシグナルの亢進および細胞の増殖が妨げられると考えられる。これは、細胞内マグネシウム量の調節を介した腸管上皮の恒常性維持に関する新規な分子メカニズムである。また、マウス発がんモデルを利用した実験から、この腸管上皮恒常性維持機構が大腸がんの発生を抑制していることも明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今回、CNNM4が細胞内マグネシウム量の調節を介して腸管上皮細胞の増殖を制御する分子メカニズムを明らかにすることができた。CNNM4欠損腸管上皮細胞では細胞増殖の亢進に加えて細胞の分化が抑制され、杯細胞や内分泌細胞の数が減少していた。分化細胞の減少は腸管上皮の機能低下につながる現象であり、Cnnm4遺伝子欠損マウスでは、DSS投与により惹起される潰瘍性大腸炎が増悪していた。この結果はCnnm4遺伝子欠損により炎症への抵抗性が低下したことを示している可能性がある。しかし、CNNM4や細胞内マグネシウムがどのようにして細胞の分化を制御しているのかは不明である。そこで、CNNM4が腸管上皮細胞の分化を制御する分子機序を明らかにするため、CNNM4欠損腸管上皮細胞における遺伝子発現の変動を網羅的に検索し、どのようなシグナルが変動しているのかを同定することで、細胞内マグネシウム量の調節と細胞分化の関係を調べ、マグネシウムによる腸管上皮恒常性維持に関する新たな知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
CNNM4遺伝子が腸管上皮細胞の増殖を制御する分子メカニズムを明らかにするため、CNNM4欠損腸管上皮細胞に対するマイクロアレイを用いた遺伝子発現変動の網羅的解析を行う予定であったが、CNNM4およびマグネシウムによる細胞増殖制御に関わる分子としてTRPV1を同定することができたので、網羅的解析を行わずTRPV1とCNNM4の関わりを中心に研究を進めた。次年度では、CNNM4による細胞分化制御の分子メカニズムを明らかにするため、当初予定していた遺伝子発現の網羅的解析を行う予定である。
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