前年度までの研究において、Mg2+トランスポーターCNNM4の遺伝子欠損させると、大腸がんモデルApc遺伝子ヘテロ欠損マウスの腸に形成される腫瘍が悪性化すること、そしてその腫瘍内ではパネート細胞のマーカーLysozymeを発現している細胞が増えており、それらの細胞が浸潤部位に集まっていることが明らかになった。こうしたLysozyme発現細胞の挙動がCNNM4遺伝子の欠損によるものなのか、あるいは悪性化した腫瘍では一般的にみられるものなのかを検討するため、大腸がんモデルマウスの改良を行った。Apc遺伝子ヘテロ欠損マウスでは腫瘍が悪性化する前に死亡してしまうので、マウスの遺伝的背景を変更することで寿命を延長し、時間経過とともに悪性化した腫瘍を観察することができるマウスを作出した。このマウスでは8-9ヶ月齢で一部の腫瘍が悪性化し周囲組織へと浸潤する様子が観察された。そこで同じマウスの中に形成された腫瘍を比較したところ、浸潤性の腫瘍では非浸潤性の腫瘍と比較してLysozyme発現細胞の数が多く、それらは浸潤部位に集まっている様子が観察された。このことからLysozyme発現細胞の出現は、時間経過に伴い悪性化する腫瘍で一般的にみられる現象であることがわかった。重要なことに、腫瘍から回収した細胞をオルガノイド培養したところ、Lysozyme発現細胞が他のがん細胞が形成するオルガノイドから離脱して周囲に散らばっている様子が観察された。これらの結果から、Lysozyme発現細胞は浸潤性であり、転移を引き起こす可能性があることがわかった。
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