研究実績の概要 |
piRNA経路は生殖細胞で機能する機構で、次世代へ受け渡すための大切なゲノムをレトロトランスポゾン(TEs)から保護する機構に関わるということが盛んに研究され報告されてきた。近年では、piRNA経路構成因子は特定の条件下で体細胞においても発現し、もしかすると類似した機構で働く可能性について報告されていきている。ヒトやマウスにおいて、多くの体細胞由来がん細胞においてpiRNA経路構成因子の発現について報告がある(Ross et al., Nature, 2014)。この中には、前年度において注目した分子、piRNA経路構成因子GTSF1も含まれ、リンパ腫において発現する。また、マウスにおいては、炎症に伴ってpiRNA経路構成因子であるMIWI2が肺上皮細胞で発現し、自然免疫系の誘導に機能することが示唆されている(Wasserman et al., J.Clin.Invest., 2017)。すなわち、piRNA経路と類似した機構が免疫系の生理的な機序の中に組み込まれていることを示唆している。前年度の実施報告書の研究推進方策欄で、本研究課題を遂行するにあたり革新的な方向性を模索することに言及したとおり、本年度においては上記のような驚くべき知見をもとに免疫系における短いRNAs(piRNAやmiRNAs等)やTEsの挙動について検討した。リンパ球の機能を阻害したときにTEsや短いRNAsの挙動がどのように変化するのかを明らかにするために、Dock2欠失マウスの脾臓T細胞およびB細胞(D2KO ST or SB cells)におけるTEs の発現と短いRNAs の一種であるmiRNAsの発現を調べた。その結果、D2KO ST cellsでは野生型と比べてTEsの発現が有意に低下していた。免疫系細胞の活性変化とTEs発現が関連する可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要の欄で報告したとおり、今年度では脾臓に存在するT細胞およびB細胞におけるTEsの発現を調べ、免疫系細胞の活性変化とTEs発現が関連する可能性を示唆するデータを得た。最近の報告で、脾臓には血液凝固FVIII因子に対する中和抗体の産生経路における最も上流に位置する抗原提示細胞が存在することが報告され注目されている(Zerra et al., blood, 2017)。どのようにしてFVIII因子が自己あるいは非自己分子と認識され、寛容あるいは免疫活性化が誘導されるのかについては、抗原提示細胞における細胞内メカニズムが関係していると推察されるが、分子機構は不明である。次年度においては、抗原提示細胞におけるTEs発現とFVIII因子の自己・非自己認識に、短いRNA経路のような細胞内メカニズムが関与するのかどうかを調べる。
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