研究課題/領域番号 |
17K08635
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
小迫 英尊 徳島大学, 先端酵素学研究所(オープンイノベ), 教授 (10291171)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / オートファジー / ミトコンドリア / TMT / IP-MS / プロテオーム / 質量分析 |
研究実績の概要 |
家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物として、セリン/スレオニンキナーゼPINK1 とユビキチンリガーゼParkin が知られている。近年、PINK1とParkin が協調して損傷ミトコンドリア上にリン酸化ユビキチン鎖を形成することにより、損傷ミトコンドリア特異的なオートファジー分解を引き起こすことが明らかになった。しかしながら、PINK1のミトコンドリアでの複合体形成機構やPINK1の下流シグナル伝達系については不明な点が多い。昨年度までに、TMT (tandem mass tag)標識による10サンプル間比較定量リン酸化プロテオーム解析および免疫沈降-質量分析(IP-MS)により、PINK1の下流基質であり、かつPINK1と相互作用するミトコンドリア外膜タンパク質を見出した。本年度はまず、このタンパク質を大腸菌で発現・精製し、in vitroキナーゼアッセイを行うことによって、培養細胞から免疫沈降したヒトPINK1および大腸菌から精製した昆虫PINK1が直接リン酸化し得ることを明らかにした。さらにこのリン酸化部位をアラニンまたはアスパラギン酸に置換したリン酸化不能型またはリン酸化模倣型の変異体を作成した。一方で、PINK1によって活性化したParkinがミトコンドリアに局在するユビキチンリガーゼであるMITOLをユビキチン化することを見出し、質量分析によってMITOLのC末端付近のリジン残基がユビキチン化部位であることを示した。このユビキチン化部位をアラニンまたはアルギニンに置換した変異体を解析することにより、ParkinがMITOLをユビキチン化することによってMITOLをミトコンドリアからペルオキシソームに移行させることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリア損傷依存的にPINK1と相互作用し、かつPINK1によって直接リン酸化される新たな基質タンパク質を同定することができた。このタンパク質はミトコンドリア外膜に局在し、ミトコンドリア特異的なオートファジーやアポトーシスと関連することが報告されており、PINK1/Parkinシグナルにおいて何らかの役割を果たしている可能性がある。また、ParkinがMITOLをユビキチン化することによってMITOLをミトコンドリアからペルオキシソームに移行させることが示されたことから、損傷ミトコンドリアからの脱出を促進する移行シグナルとしてのユビキチンの新たな役割が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に作製した新規PINK1基質のリン酸化不能型またはリン酸化模倣型の変異体を用いて、その酵素活性を野生型と比較する。また、野生型と変異体で免疫沈降-質量分析を行い、相互作用タンパク質を大規模に定量比較することによってリン酸化の意義を明らかにする予定である。またsiRNAノックダウンを行い、細胞内での生理機能を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
TMT標識法を用いた大規模比較定量リン酸化プロテオーム解析、および免疫沈降-質量分析によるPINK1との相互作用因子の大規模同定により、PINK1/Parkin経路に関与する有望な候補を予想よりも効率的に絞り込むことができたため、未使用額が生じた。次年度はこの候補因子に焦点を当て、リン酸化部位の変異体を用いた機能解析およびsiRNAノックダウンによる細胞機能の解明を進める予定であり、これらの解析を担当する技術職員の人件費に使用することを計画している。
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