NADPHオキシダーゼ(NADPH oxidase; Nox)ファミリーは、生体防御や甲状腺ホルモンの合成、さらには細胞内シグナル伝達分子として利用される活性酸素を積極的に生成する一群の酵素系である。活性酸素の過剰な生成は、生体に害を及ぼすため、Noxが活性酸素を生成するまでに至る成熟化は厳密に制御されている。この制御システムの破綻は、活性酸素の無秩序な生成を引き起こし、様々な疾患の発症に繋がる。例えば、がん化した細胞においては、Noxファミリーが過剰に活性化されていることが知られている。Noxファミリーの中でもNox1は、活性酸素の一種であるスーパーオキシド(O2-)を生成する酵素で、大腸上皮細胞に豊富に発現し、局所における殺菌に関わっている。また、粘膜損傷の修復における重要な過程である上皮細胞の遊走とNox1の関連が指摘されている。今回私は、Nox1を発現する大腸上皮細胞株(ヒト結腸腺癌; HCT-116細胞)における遊走能に対する活性酸素スカベンジャーの前処理の効果を検討した。実験に使用したフリーラジカルスカベンジャーedaravoneは、HeLa細胞に外来性に発現させたNox1由来のO2-や不均化されて生じるH2O2を効率良く消去した。興味深いことに、Nox1を発現するHeLa細胞のedaravoneによる前処理は、化合物の洗い出し後に生成されるO2-量を減少させた。これは、Nox1が生成するO2-が自身の酵素活性を促進していること示す。次に、edaravoneで前処理したHCT-116細胞は、未処理の細胞に比べて、リガンドの濃度勾配に従い、遊走速度が上昇することを明らかにした。以上の結果より、Nox1活性は、自身の生成物により正のフィードバック調節を受け、増強されたNox1由来のO2-は、細胞の遊走能の抑制に寄与することを示唆する。
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