研究課題/領域番号 |
17K08638
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
朝光 かおり 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (20381783)
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研究分担者 |
岡本 尚 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 名誉教授 (40146600)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HIV / 転写制御 |
研究実績の概要 |
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症/AIDSは、いまだに世界中で約3670万人を苦しめている感染症である。研究者の努力により治療法は急速に確立されたものの、耐性ウイルスの出現や重篤な副作用の出現、潜伏感染には無力であることなど、未だ解決すべき課題が多く残されている。これらの課題を克服する新規治療薬として期待されているのが、HIV転写過程を標的とした阻害剤である。 HIV転写過程とは、HIVプロウイルスからウイルスRNAが産生される過程である。本過程はウイルス産生がみられない潜伏感染状態からHIVの転写活性化を引き起こす初期過程と、爆発的なHIV遺伝子の転写誘導が起こる後期過程に分けられる。HIV転写初期過程は、宿主の転写因子群の活性のバランスによって制御されている。その主なものの一つに、転写因子NFκBの活性制御が挙げられる。また、HIV転写後期過程は、主にTatとそのコファクターである転写伸長因子P-TEFb(CDK9とcyclin T1の複合体)によって担われており、HIV 転写活性化時には、Tat/P-TEFb複合体が形成されることが必須である。 我々の研究目的は、これら2つの転写過程について、メジャーな役割を担う機能分子の活性制御機構を詳細に検討し、最終的には創薬の基盤となる情報を見出すことである。現在まで、Tat/P-TEFb立体構造を用いたMD解析から、①CDK9のポケット構造を標的とした阻害剤②複合体形成に重要なTatとCDK9のアミノ酸残基、を見出している。更に、HIV転写活性を正に制御する新規NFκB相互作用分子NSRP1を見出し、その機能メカニズムについて検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tat/P-TEFbの複合体の形成過程について、P-TEFb特にCDK9を中心とした解析、Tatを中心とした解析、という2種類の方法でアプローチを行った。前者に関しては、CDK9の特異的ポケットの解析をとそれを標的とした阻害剤開発を行い、ポケットが阻害剤開発のファーマコフォアとして有用であることを見出した。後者に関しては、Tat/P-TEFb複合体、Tat単独という2種類の立体構造を用いてMDシミュレーションを行った。Tat/P-TEFb複合体の解析からは、複合体形成と維持に関与するTatのアミノ酸残基を同定することができた。他方、Tat単独の解析から、複合体形成に関与するTatのアミノ酸残基を推定できた。 また、NFκB活性制御機構については、HIV-LTRの転写活性を増強する新規NFκB相互作用分子NSRP1について解析を行った。in vitro, in vivoでNRκBサブユニットp65とNSRP1の結合を示すことが必須であるが、現時点ではまだ成功していない。そのため、他のNFκB新規相互作用分子について解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、CDK9の特異的ポケットを標的としCDK9活性を調整する阻害剤候補が見つかっている。今後は、その化合物やその部分構造の活性特異性について検討する。更に、Tat単独のMDシミュレーションデータの解析とバリデーションを行い、Tat阻害剤開発のための最適なファーマコフォアを得る。それを元にin silicoスクリーニング、活性化合物の同定を目指す。NFκB新規相互作用分子に関しては、昨年度に引き続き研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)阻害剤スクリーニングのための化合物購入が、次年度に持ち越されたため。 (使用計画)物品費に使用する。
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