ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症/AIDSの治療法は、生涯にわたり治療を受けることが要求される。その為、耐性ウイルスの出現や重篤な副作用が問題となっており、これらを克服する新しいHIV 治療薬の開発が望まれている。 その最適な標的の一つがHIV転写活性過程である。本過程は、主に宿主転写因子NFκBとウイルス由来の転写活性化因子Tatにより制御されている。本申請課題では、これらの過程の詳細なメカニズムの解明と阻害剤開発について検討を行い、特にTatとその複合体を標的とするHIV新規阻害剤候補を得ることができた。 Tatによる転写活性化は、宿主の転写伸長因子P-TEFb(CDK9とcyclin T1の複合体)とTatがHIV転写活性化複合体(Tat/P-TEFb複合体)を形成することで開始される。本研究課題では、第一の成果として、Tat/P-TEFb複合体とTatが結合していないP-TEFb複合体の分子動力学計算の比較から得られたTat特異的に形成されるCDK9 hidden cavityを用いたin silicoスクリーニングから、CDK9活性を阻害する化合物を得ることができた。本知見はCDK9のhidden cavityが新規CDK9阻害剤の開発に不可欠な情報を提供し、HIV転写を標的とした新規HIV治療薬の開発に大きく寄与するものである。次の成果としては、Tatを用いた分子動力学計算を行ない、Tatのもつ特徴的な構造とファーマコフォアを見出したことがあげられる。これをもとにin silicoスクリーニングを行ない、Tat活性を部分的に阻害する化合物を見出した。今後この化合物の詳細なメカニズムの検討を行いたいと考えている。 HIV転写過程は特に潜伏感染状態を制御する重要な過程にも関わらず、それを標的としたHIV治療薬は現在開発されていない。本申請で得られた知見は、HIV新規阻害剤開発に重要なものになると考えられる。
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