研究課題
代表的なプロトがん遺伝子Rasの変異は、発がんの開始・促進を誘導する。これまでに、発がんにおけるRasを起点としたシグナル伝達については多くの知見が蓄積されている。一方、発がんの過程で発生したがん細胞が浸潤・転移能を獲得して悪性化する過程とRasのシグナル伝達との関係は明らかではない。これまでに、申請者らはがん化型Ras(G12V)変異体による細胞の形質転換(発がんの開始・促進)では、がんの悪性化に関わるチロシンキナーゼMerの発現が亢進することを見出した。本課題では、MerとMer結合タンパク質に焦点をあて、発がんとがんの悪性化を網羅するRas変異体が誘導するシグナルの全容を理解することを目的とした。本年度は、1)Ras(G12V)による細胞遊走能に対するMerの影響の解析、2)Rasのシグナル経路におけるMerの活性化メカニズムの解析、3)Mer結合タンパク質の同定を行うこととした。1)に関しては、Merの発現を抑制した細胞ではRas(G12V)による細胞遊走能が抑制され、この細胞にMerを過剰発現させると細胞遊走能が回復した。このことから、RasはMerを介してがんの悪性化に関与していると考えられる。2)に関しては、Ras(G12V)により形質転換した細胞の抽出液から得たMerの免疫沈降物について抗リン酸化チロシン抗体によるイムブロットを行ったところ、Merのリン酸化が認められた。このことから、Rasのシグナル経路におけるMerの役割はチロシンキナーゼであることが示唆された。3)FLAGタグを付加したMerの組換えタンパク質を発現させた細胞の抽出液から精製したMer複合体を質量分析計により解析したところ、細胞骨格やシグナル伝達に関与する複数のMer結合タンパク質が同定された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究により、計画通り、Ras(G12V)による細胞遊走能に対するMerの影響とRasのシグナル経路におけるMerの活性化メカニズムを示し、これらMerの働きに作用することが期待される複数のMer結合タンパク質を同定できており、全体の計画はおおむね順調に進行していると考える。
本年度の計画をもとに、計画通り、RasシグナルにおけるMerの細胞遊走に対する役割をMer結合タンパク質の機能解析を基軸に明らかにしていく。これらin vitroの解析と並行して、腫瘍形成と悪性化に対するMerとMer結合タンパク質の影響を明らかにするため、マウスを用いたin vivoの解析を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Heliyon
巻: 3 ページ: e00436-e00436
10.1016/j.heliyon.2017.e00436
J Immunol
巻: 199 ページ: 3614-3622
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