研究課題/領域番号 |
17K08641
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
太田 聡 自治医科大学, 医学部, 講師 (40528428)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発がんシグナル / がんの悪性化 / Ras / Merチロシンキナーゼ |
研究実績の概要 |
プロトがん遺伝子Rasの変異は、多くのがんの原因となる。これまでに、Rasを起点とした発がんのシグナル伝達については多くの知見が蓄積されている。一方、Rasのシグナルと、発がんの過程で発生したがん細胞が悪性化する過程との関係は明らかではない。これまでに、申請者らはがん化型Ras(G12V)変異体による細胞の形質転換(発がん)では、がんの悪性化に関わるチロシンキナーゼMerの発現が亢進し、Ras(G12V)による細胞遊走能の亢進をMerが促進することを見出した。本課題は、MerとMer結合タンパク質に焦点をあて、Ras変異体が誘導する発がんとがんの悪性化を網羅するシグナル全体の理解を目的とするが、本年度は、1)RasのシグナルにおけるMerの活性化メカニズムの解析、2)ヒトの培養細胞でのRasを起点とした発がんシグナルにおけるMerの役割の解明を行なった。 1)に関しては、まずMerの発現を抑制した細胞に野生型Merまたはキナーゼ活性を欠損したMer(KD変異体)を発現させた。次に、これらの細胞抽出液から得たMerの免疫沈降物について抗リン酸化チロシン抗体によるイムブロットを行ったところ、野生型Merのみにリン酸化が認められた。また、Merの発現抑制による細胞遊走能の低下は、野生型Merを発現したとき部分的に回復し、KD変異体の発現では回復が見られなかった。これらのことから、Ras/Merシグナルによる細胞遊走の亢進に、Merの自己リン酸化が必要であると考えられる。2)に関しては、ヒト肺がん由来がん化型Ras(G12S)変異体をもつA549細胞についてMerの阻害剤UNC569で処理、あるいはMerの発現を抑制したところ、マウス線維芽細胞と同様に細胞遊走能が抑制された。以上もことから、ヒト細胞においても、Rasの発がんシグナルにおいてMerが細胞遊走に関与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、計画通り、Rasの発がんシグナルにおけるMerの活性化メカニズムと、がん化型Ras変異体をもつヒト細胞の細胞遊走に対するMerの影響を示すことができ、全体の計画はおおむね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の計画をもとに、計画通り、Ras/Merシグナルによって活性化する細胞遊走の活性化メカニズムをMerの下流で機能する分子を基軸に明らかにして行く。Merの下流で機能する分子の候補としては、これまでに細胞抽出液から免疫精製により精製したMer複合体の質量分析解析によって同定した複数のMer結合タンパク質を中心に解析する予定である。これらin vitroの解析と並行して、腫瘍形成と悪性化に対するMerとMer結合タンパク質の影響を明らかにするため、マウスを用いたin vivoの解析をすすめる予定である
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