研究課題
本研究は、新規発がんシグナルRas/IL-33経路の役割の解明を目的として行われてきた。これまでに、私たちはがん化型Ras(G12V)変異体による細胞の形質転換では、チロシンキナーゼMerの発現がIL-33依存的に亢進し、Ras(G12V)による細胞遊走能の亢進をMerが促進することを見出した。そこで、Merのリン酸化とキナーゼ活性の、Ras (G12V)が誘導する細胞遊走能に対する影響を検討した。shRNAを用いてMerまたはIL-33の発現を抑制した細胞に、shRNA耐性の野生型MerまたはMerのキナーゼ不活性型変異体を発現させた。次に、それぞれの免疫沈降産物について抗リン酸化抗体でイムノブロットしたところ、野生型MerのみがRas (G12V)により形質転換した細胞において強くリン酸化された。また、IL-33の発現抑制によるRas (G12V)の細胞遊走能の低下を野生型Merの発現はレスキューできたが、キナーゼ不活性型変異体の発現はレスキューできなかった。これらの結果から、Ras/IL-33経路によってMerはリン酸化され、Merのキナーゼ活性はRasによる細胞遊走能の促進に必要であることが明らかとなり、Ras/IL-33経路は、Merを介してがんの発症と悪性化を結びつけていることが示唆された。一方で、私たちは、代表的な細胞遊走因子であるRac1の阻害剤は、Ras (G12V)による細胞遊走の亢進に影響しないことを見出した。よって、Ras/IL-33/Mer経路は、Rac1を介さずに細胞遊走を亢進していると考えられる。そこで、Mer結合タンパク質を質量分析法により解析したところ、STK38とARHGAP18を同定した。STK38とARHGAP18は共に細胞遊走に関与することが報告されており、今後、Ras/IL-33/Mer経路の下流における役割の解明が必要である。
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Mol Oncol.
巻: 13(11) ページ: 2493-2510