研究課題/領域番号 |
17K08643
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
大森 慎也 高崎健康福祉大学, 薬学部, 講師 (10509194)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マスト細胞 / GATA2 / Cebpa / ヒストン修飾 / 血球分化 |
研究実績の概要 |
申請者らは、成熟マスト細胞において転写因子GATA2は、骨髄球分化で中心的な役割を担うCebpaの転写を抑制し、その分化形質の維持に働いていることを明らかにした(Ohmori et al., blood., 2015)。しかしその抑制メカニズムは不明である。GATA2とC/EBPαは互いに血球分化で中心的な役割を担う。申請者は、血球分化過程におけるGATA2とCebpaの転写制御メカニズムを解明することを最終的な目的とし、本研究課題においてBMMCsをプロトタイプとしGATA2によるCebpa転写抑制メカニズムの解明に着手した。2017年度は、研究計画書に従いGATA2欠失時の転写因子の挙動について解析し、GATA2欠失時のCebpaの発現上昇にはPU.が関与することを見出した。2018年度は、前年度の成果からPU.1/GATA2条件付きノックアウトマウス作出と研究計画書に従いCebpa転写活性化に伴うヒストン修飾の変化について検討した。HDAC阻害剤(TSA)とDNAメチル化阻害剤(5Aza)を用いてCebpaの発現を解析した結果、TSA処理でCebpaのmRNA量が増加した。このことから、Cebpaの転写活性化にはヒストン修飾の変化が関与している可能性が示唆された。次に、GATA2欠失後のCebpa遺伝子座のヒストン修飾を調べた結果、Cebpa遺伝子本体とその周囲でH3K27me3(転写抑制の指標)の減少と、H3K27ac(転写亢進の指標)の増加が起こることを見出した。さらにH3K27me3修飾に関与するPRC1/PRC2、UTXの挙動をChIP assayにより解析した結果、UTXの結合増加とH3K27me3修飾の減少が逆相関していた。以上、UTXがリクルートされることでH3K27me3修飾が遺伝子本体の周囲で減少しCebpa遺伝子が活性化する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書において次年度は、1)GATA2欠失によるCebpa遺伝子座ヒストン修飾の解析、2)骨髄球エンハンサーCebpa +37K GATAの重要性についてBACレポーターマウスを作出し、個体レベルで検証することを計画した。まず2)に関しては、前年度(2017年度)に実施した「ゲノム編集法によるCebpa +37Kの欠失」で得られた成果から、Cebpa +37K 領域の欠失はCebpaの転写活性化に影響しないこと明らかとなり、同時に、GATA2欠失時にはCebpa遺伝子座の広い範囲でヒストン修飾が変化し、それを介して発現が上昇する可能性が見出された。従って、Cebpa +37K GATAは、GATA2欠失時のCebpa発現上昇において必須の領域ではなく、BACレポーターマウスの解析が有益でないと考え作出を中止した。一方、1)に関しては予定通り解析が進んでおり、GATA2欠失時のCebpa発現上昇には、DNAの修飾ではなくヒストン修飾が関与していること、またGata2単独の欠失ではH3K27me3修飾の減少とH3K27ac修飾の増加が起こることを見出した。加えてGata2とCebpaを共に欠失させるとH3K27me3修飾の減少は認められるがH3K27ac修飾が増加しないこともわかり、H3K27me3修飾の減少は単なるアセチル基の交換ではなく積極的に脱メチル化させる機構があると考えられた。この結果からさらに解析を進めた結果、H3K27脱メチル化酵素であるUTX が関与している可能性が示唆された。以上の成果から、研究計画全体としておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、1)GATA2欠失による、H3K27のヒストン修飾の変化とUTXの働きについて、ChIP-assayを中心により深く解析を進める。2)作出したPU.1/GATA2ダブルコンディショナルノックアウトマウスから樹立した骨髄由来マスト細胞を用いて発現解析を行い、同時にH3K27のヒストン修飾の変化とUTXに対する関与についても検証する予定である。以上の解析結果をまとめ、多角的な観点からGATA2によるCebpa転写抑制メカニズムについて解析を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度研究計画に予定していたBACレポーターマウスの解析を中止したため、トランスジェニックマウスの作出にかかる費用を繰り越した。その解析に変わり、現在までに成果が得られているヒストン修飾の解析のChIP-Seqにかかる費用として使用する予定である。
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