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2018 年度 実施状況報告書

非コードRNAによる生殖細胞ゲノムの恒常性維持機構

研究課題

研究課題/領域番号 17K08644
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

村野 健作  慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80535295)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードsmall RNA / サイレンシング / 生殖細胞 / 転写抑制
研究実績の概要

生殖細胞系列で転移と増殖を繰り返すレトロトランスポゾンは、生命の次世代継承にとって脅威である。非コード小分子RNA(piRNA)とPIWIタンパク質の複合体は、配列情報と相補的なレトロトランスポゾンを抑制し、ゲノムの恒常性を維持している。ショウジョウバエPIWIタンパク質のうち核に局在するPiwi-piRNA複合体は、標的トランスポゾン周辺にH3K9me3修飾やリンカーヒストンH1を特徴とするヘテロクロマチン構造を形成し、トランスポゾンの転写反応を抑制していることが知られている。しかし、その転写反応の抑制機構の詳細はわかっていない。そこで、Piwi-piRNA複合体の相互作用因子のひとつPanoramix(Panx)に着目した。これまで明らかとなっているPiwi-piRNA複合体の相互作用因子のうちPanxは最下流の因子であると考えられている(Yu et al., Science, 2015)。Panxに対するモノクローナル抗体を作製し、これを用いた免疫沈降により新たにNuclear export factor 2 (Nxf2)がPanxおよびPiwiと複合体を形成することを明らかにした。Nxf2は卵巣特異的に発現し、RNA核外輸送因子Nxf1と類似したドメイン構造をもつことが知られているが、その機能は未知である。ショウジョウバエ個体の解析結果から、Nxf2がPiwiと同様に不妊の原因遺伝子であることを見出した。さらに、培養細胞を用いたNxf2ノックダウン条件下でのRNA-seqおよびChIP-seq解析により、Nxf2はPiwi-piRNA経路でH3K9me3修飾を制御し、標的トランスポゾンを抑制することがわかってきた。現在、レポーター遺伝子を用いた解析により、Nxf2による標的遺伝子の転写抑制機構の解明を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

Piwi-piRNA経路によるトランスポゾン抑制のかなめと考えられるPanxに対してウェスタンブロッティング法と免疫沈降法が可能なモノクローナル抗体を作製した。ショウジョウバエ卵巣体細胞由来の培養細胞であるOSCを試料に、免疫沈降法により精製したPanx複合体をSDS-PAGEに展開し、銀染色により検出されたタンパク質を質量分析によって同定した。その結果、Piwiの他に新規Panx相互作用因子としてNxf2を同定した。Nxf2に対するモノクローナル抗体も作製し、免疫沈降法とウェスタンブロッティング法によりPanxとNxf2の相互作用を確認した。培養細胞OSCにおいて、Nxf2をノックダウン(KD)するとトランスポゾンの脱抑制が観察された。RNA-seq法を用いた網羅的解析によりNxf2-KDとPanx-KDで脱抑制されるトランスポゾンの種類と程度は同じであることがわかった。また、piRNAと相補的なトランスポゾンが脱抑制されることから、Nxf2とPanxはPiwi-piRNA経路の過程でトランスポゾン抑制に関与していることが強く示唆された。興味深いことにNxf2-KDによりPanxタンパク質の発現量も減少し、Panx-KDによりNxf2タンパク質の発現量も低下した。一方でRNAレベルでは互いに干渉しなかったことから、Nxf2-Panxの相互作用は互いのタンパク質安定性に重要であることが明らかとなった。Nxf2に対するshRNAを卵巣特異的に発現するショウジョウバエを用いた解析から、卵巣内においてもNxf2-KD条件下ではPanxタンパク質の発現量が減少することがわかった。また、Nxf2-KD条件下で産生された卵はふ化することがなかったことから、Piwiと同様にNxf2は不妊の原因遺伝子であることが明らかとなった。

今後の研究の推進方策

これまでの解析から、Nxf2はPanxとともにPiwi-piRNA経路においてトランスポゾン周辺にヘテロクロマチンを形成し、転写抑制に関与していることが明らかとなってきた。しかし、Nxf2-Panxがどのようにヘテロクロマチン関連因子をトランスポゾン上へリクルートしているかについてはわかっていない。その分子メカニズムを明らかとするため、ラムダファージ由来のラムダNタンパク質とboxB RNAの相互作用を用いた人工係留レポーターシステムを構築した。ユビキチン遺伝子プロモーターによって転写されるルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとし、組み込んだイントロンへboxB配列を挿入する。ラムダNタンパク質を融合したNxf2はルシフェラーゼmRNAへ強制的に係留される。このレポーター遺伝子を培養細胞OSCのゲノムに挿入させた細胞株を樹立した。現在までにラムダNタンパク質を融合したNxf2はルシフェーラーゼ遺伝子の転写を抑制することがわかっている。今後、ChIP法を用いてレポーター遺伝子上に形成されるヘテロクロマチンの性状変化(H3K9me3、H3K4me3、リンカーヒストンH1、HP1a)や転写抑制変化の時間経過を詳細に検討する。また、これまでにPiwi-piRNA経路で転写抑制に関与していることがわかっているGtsf1やMael、H3K9メチル化酵素Eggless、H3K4脱メチル化酵素(LSD1)との相関関係を検討する。RNA polymerase II相互作用因子として報告されトランスポゾンの転写に関わるPAF1やRTF1への干渉についても検討する。さらに、係留されたNxf2に相互作用するタンパク質の同定を進めることで、転写抑制の新規分子実体の解明を試みる。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Tbx6 Induces Nascent Mesoderm from Pluripotent Stem Cells and Temporally Controls Cardiac versus Somite Lineage Diversification.2018

    • 著者名/発表者名
      Sadahiro T, Isomi M, Muraoka N, Kojima H, Haginiwa S, Kurotsu S, Tamura F, Tani H, Tohyama S, Fujita J, Miyoshi H, Kawamura Y, Goshima N, Iwasaki YW, Murano K, Saito K, Oda M, Andersen P, Kwon C, Uosaki H, Nishizono H, Fukuda K, Ieda M
    • 雑誌名

      Cell stem cell

      巻: 23(3) ページ: 382-395

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.stem.2018.07.001

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Nuclear RNA export factor variant triggers Piwi-piRNA-mediated co-transcriptional silencing2019

    • 著者名/発表者名
      Kensaku Murano, Yuka W. Iwasaki, Akane Mashiko, Haruhiko Siomi
    • 学会等名
      The 20th Takeda Science Foundation Symposium on BioSciences
    • 国際学会
  • [学会発表] Piwi-piRNA silencing is triggered by Nxf2-mediated transcriptonal regulation prior to heterochromatin formation2018

    • 著者名/発表者名
      岩崎由香、村野健作、益子あかね、渋谷あおい、塩見春彦
    • 学会等名
      第20回日本RNA学会年会
  • [学会発表] Piwi-piRNAによるトランスポゾン抑制はNxf2を介した転写制御とヘテロクロマチン形成により引き起こされる2018

    • 著者名/発表者名
      村野健作、岩崎由香、益子あかね、渋谷あおい、塩見春彦
    • 学会等名
      第41回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] MuERV-L Gagタンパク質と相互作用するRNAの探索2018

    • 著者名/発表者名
      村野健作
    • 学会等名
      転写因子研究会
  • [備考] Siomi Lab

    • URL

      http://siomilab.med.keio.ac.jp

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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