TGF-βによって誘導されるEMT(上皮間葉移行)の形態変化や細胞運動能をFGFシグナルが増強するeEMT(enhanced-EMT)と名付けた現象に関与するチロシンリ ン酸 化シグナルの解析を進めている。これまでに、安定同位体アミノ酸を用いたSILAC法を用い、TGF-β単独で誘導されるEMyoTとTGF-β+FGF-2で誘導されるeEMTの細 胞抽出液からリ ン酸化タンパク質の網羅的な比較を行い、およそ550のタンパク質がeEMTで特異的にチロシンリン酸化修飾を受けていることを明らかにした。続 いて、同定したリン酸化タンパク質群の中からeEMTの機能に関与するリン酸化を探索するため、既知の機能や発現場所、リン酸化量などを材料に注目したおよそ 30種のタンパク質をshRNAを使ってノックダウンした。ノックダウンを行ったNMuMG細胞株に関してeEMT誘導能に大きな変化は見出せなかったが、市販の阻害剤の効果を検討した結果、4種類についてTGF-βとFGF2による形態変化などのeEMT誘導を阻害する様子が観察された。 また、びまん性の浸潤様式を特徴とするスキルス胃がんにおけるチロシンキナーゼによる癌悪性化機構に着目し、FGFR2の遺伝子増幅が認められた細胞でのリン酸化標的タンパク質の探索を施行した。FGFR2によってTfR1のTyr20がリン酸化されるとエンドサイトーシスを介した鉄の取り込みが亢進し、細胞の増殖や生存が促されることを示した。マウス腹腔内移植モデルでは、TfR1をノックダウンしたFGFR2活性化型のスキルス胃がんで腹膜播種が顕著に抑制され、生存率が向上した。
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