研究課題/領域番号 |
17K08650
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保田 裕二 東京大学, 医科学研究所, 助教 (70614973)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん / MAPK経路 / ERK経路 |
研究実績の概要 |
ERK経路(Raf-MEK-ERK)は、各キナーゼ分子がリン酸化により段階的に活性化されるシグナル伝達システムである。このERKシグナルは増殖刺激により活性化され細胞増殖を誘導する一方で、その異常活性化は発癌を導く。実際に、ERK経路上流に位置する増殖因子受容体の遺伝子増幅や、Ras、Rafの遺伝子変異が様々な癌で高率に生じている。 現在までに、研究代表者はERKの異常活性化により様々な遺伝子が発現亢進、あるいは抑制されることを見出している。これらの中でも、特に生存シグナルを担うAKT経路の抑制分子群がERK活性化により発現誘導されることに着目し、その病理的意義について検証した。まず、がんの公共データベース(TCGA)を解析したところ、これらの遺伝子が膵臓癌・大腸癌・肺癌を含む複数の癌において有意に亢進していることを確認した。また、これらの癌の組織サンプル(Tissue microarray)を入手し、特異的抗体を用いた免疫染色を実施した結果、正常組織よりも癌組織においてこれらのAKT抑制分子が高発現していることをタンパク質レベルで明らかにした。そこで、様々な癌細胞株(悪性黒色腫:A375/G361/sk-Mel28、非小細胞肺癌:H1299/A549、膵臓腺癌:Panc1/Aspc1、大腸癌:WiDr/RKO、扁平上皮癌:A431)にMEKの分子標的抗癌剤(トラメチニブ)を処理し、ERKシグナルを遮断したところ、これらのAKT抑制遺伝子の発現が有意に減少すると共にて、癌細胞のAKTシグナルが活性化する事を見出した。以上の結果から、これらのAKT抑制分子は通常、生存シグナルのブレーキとして発現しているが、ERK経路の遮断による発現停止時においてはAKTシグナルの抑制を解除し、細胞の生存に寄与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、まず始めに研究代表者が同定したERKシグナル下流で発現する遺伝子のうち、生存シグナルを担うAKT経路の抑制分子に着目して研究を進めた。がんの公共データベース(TCGA)の解析とともに、実際の癌臨床検体での発現レベルを調査するため組織マイクロアレイ(US BIOMAX社)の免疫染色を実施したところ、これらの遺伝子が膵臓癌・大腸癌・肺癌など複数の癌において有意に亢進していることを明らかにした。また、これらのAKT抑制分子をHEK293細胞に一過的発現したところ、分子によって差はあるものの、インスリン刺激によるAKTシグナルが抑制されることが分かった。さらに、様々な癌細胞株(悪性黒色腫:A375/G361/sk-Mel28、非小細胞肺癌:H1299/A549、膵臓腺癌:Panc1/Aspc1、大腸癌:WiDr/RKO、扁平上皮癌:A431)にMEK阻害剤(トラメチニブ)を処理したところ、ERKシグナルの停止と一致して、これらAKT抑制遺伝子の発現が減少し、これと一致してAKTシグナルが活性化する事を見出した。以上の結果から、これらのAKT抑制分子は通常、生存シグナルのブレーキとして発現しているが、抗癌剤による発現停止に伴いAKTシグナルの抑制を解除し、癌細胞の生存に寄与している可能性が考えられる。これらの成果は次年度の研究計画を実施する上で必要なデータであり、当初の計画で期待された成果であることから、本研究は概ね順調な進捗状況であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回得られた知見を元に、本年度に計画された実験を行う。まず、HEK293細胞に上述のERK誘導性のAKTシグナル阻害分子群をそれぞれ発現させ、インスリン刺激時におけるAKTの活性強度を比較することで、最もAKTシグナルの抑制に寄与している分子を同定する。また、上記検討に該当する分子について、癌細胞での遺伝子ノックダウンまたはノックアウトを実施し、同細胞におけるAKTシグナルが亢進するか観察する。さらに、同分子を癌細胞に安定発現することで、ERK経路の阻害時でも発現が低下しない細胞株を樹立し、その生存/増殖能がトラメチニブ処理時において減弱しうるか、MTTアッセイにて調査する。加えて、同安定発現株をマウスに皮下移植し、トラメチニブに対する抵抗性が減弱されるか検討する。
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