膵島β細胞がグルコース刺激を受けてインスリンを分泌する(GSIS)際に細胞内ATPレベルの変化を調べるためFRETプローブを用いて測定した。通常、GSISでは解糖系やミトコンドリアにおけるATP合成系が亢進して細胞内ATP量が増加し、細胞膜に局在するカリウムチャネルを阻害する。その結果、膜電位の脱共役が生じて電位依存的カルシウムチャネルが開口して細胞内にカルシウムが流入してインスリン分泌が行われる。本研究でも、FRET解析でグルコース刺激による細胞内ATPの増加をリアルタイムに検出することに成功した。 本研究の仮説ではカルシウム応答性キナーゼのMLCKが活性化してミトコンドリアによるATP合成が活性化することでインスリン分泌を支えていると考えた。昨年度までの研究では、MLCKの阻害剤やMLCKのノックダウン株を用いたELISA実験からこの仮説を支持する結果を得ていた。ところが、FRET解析ではMLCKの阻害剤およびMLCKのノックダウン株いずれにおいても細胞内ATP量が増加し、予想とは真逆の結果となった。 そのため、FRETの正当性を確認するため、ロテノン(呼吸鎖1阻害剤)・オリゴマイシン(ATP合成酵素阻害剤)・グリベンクラミド(糖尿病治療薬でカリウムチャネル阻害剤)を用いてGSIS時における細胞内ATP量をリアルタイムで調べた。呼吸鎖やATP合成酵素の阻害剤を投与すると予想通り細胞内ATP量は低く、グルコース刺激にも応答しなかった。また、グリベンクラミドを投与すると、GSIS前から細胞内ATP量は高い状態となりGSIS後さらにATP量は上昇した。以上のことから、GSISにおける細胞内ATP量の動態はFRET解析で観察することができていると考えられる。まとめると、MLCK阻害でATP合成酵素が減弱しGSISも減弱したが、一方で細胞内ATP量は増加するという矛盾した結果を得た。
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