研究課題/領域番号 |
17K08652
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
金木 正夫 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (10769615)
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研究分担者 |
篠崎 昇平 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (40622626)
谷岡 利裕 昭和大学, 薬学部, 講師 (80360585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / β細胞 / インスリン抵抗性 / iNOS |
研究実績の概要 |
わが国の2型糖尿病患者数は、生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加しており、2型糖尿病の予防および治療は重要な国民的課題である。肝臓や筋肉などのインスリン抵抗性(インスリン作用の低下)に加え、膵β細胞機能不全のため正常血糖値の維持に必要なインスリン量を分泌できなくなることにより2型糖尿病が発症する。欧米に比し、わが国ではインスリン抵抗性は軽度で、インスリン分泌低下を主体として2型糖尿病を発症する場合が多い。現在、2型糖尿病の治療には、インスリン注射以外に、インスリン抵抗性改善薬やインスリン分泌を促進するインクレチン等が用いられている。しかしながら、膵β細胞機能不全の進行自体を予防・治療する薬剤は存在しない。2型糖尿病の原因治療のためには、膵β細胞機能不全を予防・治療する薬の開発が必要である。本申請研究では、iNOSがS-ニトロソ化を介して、膵β細胞機能に必須の転写因子であるPDX1の発現を抑制する情報伝達経路を解明し、その臨床的・生物学的意義を明らかにすることを目的としている。初年度は、以下の項目について研究を予定していた。 ① 炎症反応や脂肪毒性がGSK-3βを活性化するメカニズムを解明する。 ② iNOSによるTCF7L2/β-カテニンの転写抑制メカニズムを解明する。 ③ TCF7L2/β-カテニンがPDX1を抑制するメカニズムを解明する。 初年度は、計画していた研究のうち約70%を消化することができた。しかしながら、細胞実験の条件検討に当初の予定よりも多くの時間が必要となり、手つかずのままの計画があった。そのため、次年度は分担研究者を海外協力施設であるハーバード大学マサチューセッツ総合病院へ派遣し、本研究課題の進行を加速させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
項目①に関しては、β細胞株とマウス単離ラ氏島において研究を進めた。ラットINS-1/831 β細胞株、野生型ならびにiNOS-KOマウスの単離膵ラ氏島を用いて、IL-1βあるいは遊離脂肪酸(パルミチン酸)により惹起される膵β細胞機能不全が、iNOS阻害剤(L-NILや1400W)やiNOS 欠損によって防ぐことができるか検討した。iNOS欠損db/db-BKSマウスにおける研究に関しては、概ね順調に進んでいる。作成した動物を用い、iNOS欠損による血糖、血中インスリンの変化を評価した。項目② のiNOSによるTCF7L2/β-カテニンの転写抑制メカニズムの解明に関しては分担研究者の谷岡が担当している。iNOSによるβ-カテニンの発現低下におけるGSK-3βの役割の解析をするために、β-カテニンのGSK-3βによるリン酸化部位のセリン残基をアラニン残基に置換した変異型β-カテニンと野生型β-カテニンをINS1/831細胞に強制発現する系を確立した。同じく、プロモーター転写活性による解析をルシフェラーゼアッセイを用いて、遊離脂肪酸や炎症性サイトカインがiNOSおよびGSK-3β依存的にPDX1の転写活性を低下させるか否か検討した。具体的には、GSK-3βでリン酸化を受けない変異型β-カテニンの過剰発現系を用いて、β-カテニンのリン酸化が転写活性低下に必須であるか検証した。こちらに関しては、当初の仮説通りの結果を得るに至った。項目③のPDX1がβ-カテニン/TCF7L2の標的遺伝子であることの証明も初年度中にある程度進めることができた。INS1/831細胞において、Wnt3a刺激がPDX1とその標的遺伝子の発現を増加させること、β-カテニンあるいはTCF7L2のノックダウンがPDX1とその標的遺伝子の発現を低下させることを見出だした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の研究計画に関して、当初の予定から大きく外れることなく進めていく予定である。項目①に関しては、膵β細胞の機能を、糖刺激によるインスリン分泌、PDX1とその標的遺伝子であるインスリン、グルコーストランスポーター1、グルコキナーゼの発現を測定することで評価する予定であったが、この実験に関しては、細胞実験による検討に時間がかかったため、初年度までにとりかかることができなかった。そのため、次年度に当初計画した実験を進める予定である。項目②に関しては、膵ラ氏島を単離して、糖刺激インスリン分泌、PDX1とその標的遺伝子の発現を測定する予定であったが、前述の実験と重なる部分があり、初年度中に到達できなかった。膵臓切片を用いて、インスリン、グルカゴン、PDX1などの免疫染色を行う計画に関しても、次年度以降に繰り越して行う予定である。項目③に関して、PDX1のプロモーター領域を用いたルシフェラーゼアッセイとChIP(クロマチン免疫沈降)アッセイにより、TCF7L2/β-カテニンの結合部位ならびに転写活性を同定する予定である。PDX1がTCF7L2/β-カテニンの標的遺伝子であることが同定できなかった場合、PDX1以外の転写因子のうち膵β細胞機能に重要で、PDX1の転写にも関与していると考えられているNkx2-2、Nkx6-1、MafAなどについて同様の検討を行う。 次年度は、夏季に分担研究者である昭和大学薬学部の谷岡利裕准教授を協力研究施設であるハーバード大学マサチューセッツ総合病院研究所に派遣し、本件の研究を加速させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞を用いた検討に予定したよりも時間がかかり、当初計画していた動物実験を進めることができなかったため。 初年度に計画していた実験を次年度に行うとともに、分担研究者を海外協力機関へと派遣し、研究計画の加速を図る予定である。
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