研究実績の概要 |
細胞核は、核膜と呼ばれる二重膜に覆われている。タンパク質やmRNAといった核内外の物質の能動的なやりとりには、核膜にある唯一のゲートである核膜孔が使用されている。核膜孔は核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex: NPC)から成り立っており、その複合体は約30種類のNPCタンパク質(ヌクレオポリン)により構成されている。 本研究課題では、大腸がん進行におけるNPCクロマチンの関係性の病理学的メカニズムを探求することを目的とし、ヌクレオポリンとクロマチン相互作用による大腸がんの病態解明を試みた。実施期間中、大腸がん細胞における核膜孔複合体のチャネル部分を構成しているタンパク質群、FG-Nupsについて構造およびダイナミクスのナノスケールにおける可視化に成功した。これらの結果は論文投稿し、現在リバイス中である。今年度我々は、ヌクレオポリンNup58が有糸分裂期に中心体とmidbodyに局在し、正確な細胞分裂に重要であることを見出し発表した(Cell Division, 2019 IF4.06)。また、ヌクレオポリンと共に核内外の物質輸送に関わるKPNA4が扁平上皮がんにおいて、分化とがん悪性化に関与すること(Oncogene, 2020 IF6.85)、さらにKPNB1阻害が放射線照射時にPD-L1発現を上昇させることを明らかにした(Cancers, 2020 IF6.1)。腸上皮細胞おいて、炎症性および有糸分裂シグナルがLI12B非依存的にLI23Aを分泌していることを見出した(J Biol. Chem. 2020, IF4.1)。さらに、ヌクレオポリンTprが上衣腫においてオートファジーを阻害していることから、Tprが新規治療ターゲットとなり得ることを明らかにした(Autophagy, 2020 IF11.1)。
|