研究課題/領域番号 |
17K08657
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
清水 昭男 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (30769279)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん / 浸潤 / 転移 |
研究実績の概要 |
がんの浸潤・転移は、がんによる死亡原因の約90%を占めることから、がんの浸潤・転移の制御機構を解明することは、がんの征圧に向けた重要なステップであるものの、その解明は現在のところ十分ではない。申請者は、がん細胞と正常細胞の相互作用に着目し、ヒト前立腺がん由来LNCaP細胞と前立腺間質細胞を新規に独自開発した混合培養系で培養し、両細胞の接触によってがん細胞での発現が変化する遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、発現が亢進する遺伝子の一つとしてEpithelial membrane protein 1(EMP1)を同定した。EMP1ががんの浸潤・転移に大きな役割を果たしていることと、その分子メカニズムについて現在解析中である。申請者がこれまで明らかにした点として、LNCaP細胞にEMP1を過剰発現させると、がんの浸潤・転移と密接に関連する細胞運動が亢進すること、このEMP1過剰発現LNCaP細胞を免疫不全マウスの前立腺に移植すると、親株LNCaP細胞を移植した場合と比較してリンパ節や肺への転移が有意に増加したことがまず挙げられる。またヒト前立腺がん患者においても、高グリーソンスコアで転移能の高い前立腺がん組織で、EMP1発現が上昇していたことを解明した。次に、EMP1の細胞内領域に結合する分子Copine-III(申請者らにより質量分析により同定した)は、チロシンリン酸化分子Srcを活性化し、Srcは低分子量Gタンパク質Rac1の活性化因子Vav2を活性化してRac1を活性化することで細胞運動が亢進することを明らかにした。同様のシグナル伝達機構は、大腸がんCaco-2細胞や乳がんMCF-7細胞にEMP1が過剰発現した場合でも見られたことからEMP1は様々ながんにおいて浸潤・転移シグナルを細胞内に伝達していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EMP1を過剰発現させることによってがん細胞の運動のが上昇することに加え、動物実験においても転移の上昇が認められている。そしてEMP1が伝達する細胞内シグナル経路もほぼ解明している。患者サンプルも当大学病院泌尿器科より適時滞り無く引き渡されていることはEMP1の発現解析をすることにおいて甚大な利点となっている。これらは当初の研究計画立案が実現可能な状況をよく熟孝して立案された点によるところが大きい。また申請者自身の豊富な知識と技術による点もあると自負している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を基盤として、計画立案のとおりに進行させて行く予定である。EMP1の細胞内おけるシグナル伝達機構の解明はほぼ完遂したが、動物実験および患者さんのサンプル数がまだ十分に至っていない。EMP1を過剰発現させたLNCaP細胞と親株細胞の免疫不全マスへの移植実験と患者サンプルから抽出したRNAを用いたqPCRでのEMP1発現確認実験によって統計的信頼度を上げた結果得る予定である。現行の進捗状況で十分に進行速度は満たされているが、よりいっそうの解析に努力をする意向である。計画通りであれば本年度で十分な数のデータが得られるはずである。論文としての発表をもって本研究計画の完遂とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
EMP1の細胞内おけるシグナル伝達機構の解明はほぼ完遂したが、動物実験および患者さんのサンプル数がまだ十分に至っていない。そのための研究資金が必要であるために次年度使用額が生じている。免疫不全マウスの前立腺にEMP1を強制発現させたLNCaP細胞を移植しリンパ節または肺への転移を観察する。また患者サンプルよりRNAを抽出しqPCRによって定量化し統計的信頼性を上げる予定である。よって実験動物、生化学・分子生物学用試薬購入等が必須となる。
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