結核感染で生じる慢性炎症病巣(肉芽腫)は、様々な活性化状態にあるマクロファージの集合体である。肉芽腫における炎症は、結核菌排除を目的とした強力な炎症反応であり、一見して効率的な生体防御反応である。しかしながら、結核菌は肉芽腫において生存し、持続感染の温床となり、その炎症反応は持続してしまう。この肉芽腫炎症の遷延化メカニズムは明らかになっていない。研究代表者らは、肉芽腫を構成する個々のマクロファージ活性状態やその活性化機序を明らかにすることで、炎症遷延化ひいては癌性炎症の根本的メカニズムが追究できるのではと考えた。先行研究で樹立した結核感染モデル動物から肉芽腫を採取し、その病理解析を行ったところ、S100A9 タンパク質を発現する好中球が、肉芽腫を構成するマクロファージを抗炎症性(M2)に変換する鍵細胞であることがわかった。そこで本研究では、S100A9遺伝子欠損マウス(A9KO)を独自に作出し、細菌感染やがんモデルマウスにおけるS100A9の重要性をマクロファージの極性制御という観点で解析した。その結果、好中球において発現するS100A9が、抗炎症性サイトカインの発現をコントロールしていること、それによって抗炎症性M2マクロファージが誘導されることを個体レベルの生体反応として捉えることに成功した。さらに、A9KOマウスの担癌モデル解析から、がんの生着・転移において、S100A9が促進的に関与する表現型を得たことから、感染免疫学から得た知見が、がん免疫に応用できる可能性を示した。
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