細胞質に漏出したDNAは、炎症を惹起し、関節リウマチの原因となる。本研究では、細胞質DNAによって活性化する小胞体膜タンパク質STINGに着目し、その下流で誘導される炎症シグナルの分子機構を解明することを目的とした。そのため、①大規模セクレトーム解析を用いた新規炎症性液性因子の探索、②近位依存性ビオチン標識 (BioID) 法を用いたSTINGの相互作用因子の同定、の2つの実験を行い以下の成果を得た。 セクレトーム解析を用いてSTINGの活性化に伴って細胞外に放出される炎症性因子を探索した結果、IRF3依存的に転写誘導される既知のサイトカインに加え、細胞膜に局在する免疫セマフォリンファミリータンパク質SEMA4Dを同定した。そして、阻害剤およびCRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトの実験により、ADAM17がSEMA4Dを切断・放出するシェディング因子であることを突き止めた。さらに、自己炎症性疾患を誘発するSTINGの恒常活性化型変異体を細胞に発現させたモデルにおいても、ADAM17を介したSEMA4Dのシェディングが誘導されることを見出した。以上の結果より、cGAMP-STING-ADAM17-SEMA4Dという新規の炎症シグナル伝達機構が明らかとなった。 BioID法は、生きた細胞内で近接するタンパク質や直接相互作用するタンパク質をビオチン標識する技術である。今回私は、ビオチンとの可逆的結合能を有する新規アビジン様タンパク質Tamavidin2-REVを利用し、ビオチン化修飾されたペプチドの高効率な濃縮と質量分析による高感度な検出を可能にする改良法を構築した。そしてこの手法を用いてSTINGと相互作用するタンパク質のスクリーニングを行った結果、活性化の後期にリソソームに局在するIFITM3タンパク質と直接相互作用することを見出した。
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