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2017 年度 実施状況報告書

癌代謝変容機構解明による癌浸潤・転移制御法開発へむけた基盤研究

研究課題

研究課題/領域番号 17K08663
研究機関熊本大学

研究代表者

遠藤 元誉  熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (40398243)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワードIL-6 / TET2
研究実績の概要

本研究では、癌細胞における慢性炎症因子と癌代謝変容機構の関連解析を行い、癌細胞の代謝変容を標的とした新規癌浸潤・転移抑制法開発の基盤研究を行うことを目的としている。ヒト骨肉腫細胞株を免疫不全マウスに同所移植し、肺に転移した細胞と原発巣細胞をフラックスアナライザーを用いて解析したところ、肺に転移した細胞の方がOCR/ECAR比が低いことを見出した。この結果は、肺に転移した細胞では原発巣細胞と比較して解糖系が亢進していることを示している。また。これらの細胞をRT-PCR アレイ法を用いて遺伝子の発現変化を解析した結果、肺に転移している骨肉腫細胞は原発巣細胞と比較してIL-6の誘導が高いことを見出した。また、IL-6の誘導には、腫瘍辺縁の微小環境の変化により誘導されたTET2によるプロモーター部位の脱メチル化が作用していることも見出した。次に、TET2をノックダウンした骨肉腫細胞株を樹立し、コントロール細胞株とIL-6の誘導について検討した結果、TET2ノックダウン細胞株では、IL-6の誘導が抑制され、また同所移植モデルにおける転移能も低下していることを見出した。さらに、IL-6をノックダウンした細胞株にて、マウス同所移植モデルを作成し転移能を検討した結果、IL-6ノックダウン細胞株では転移能が低下していることを確認した。一方、近年ではIL-6受容体モノクローナル抗体(トシリズマブ)が関節リウマチなどの治療に用いられている。骨肉腫細胞株にトシリズマブを作用させると、OCR/ECAR比が高くなり、またマウス同所モデルにおける肺転移も抑制されることを見出した。以上の結果より、骨肉腫の肺転移においてはTET2を介したIL-6の誘導が重要な役割を担っていることが明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年度は、ヒト骨肉腫細胞を用いたマウス同所移植モデルの解析により、腫瘍辺縁の微小環境の変化が、IL-6のプロモーター部位のメチル化を変化させ、IL-6の誘導を亢進させるとともに腫瘍細胞の代謝経路を解糖系優位に変化させることによって腫瘍の肺転移を促進していることを見出した。そのメカニズムとして、MEK/ERK1/2/hypoxia-inducible transcription factor-1a (HIF-1a)経路を活性化して解糖系を亢進させるということ、またintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)の発現を亢進させることによって肺転移が促進されることも明らかにした。さらに、骨肉腫細胞株におけるTET2やIL-6の誘導をノックダウンすると解糖系シグナルが抑制され転移が抑制されるということ、さらに、関節リウマチなどIL-6が高い炎症性疾患の治療に使われているIL-6受容体モノクローナル抗体(トシリズマブ)を骨肉腫同所移植マウスモデルに投与すると、腫瘍の肺転移が抑制されることを明らかにした。これらの結果はトシリズマブが骨肉腫の肺転移にも有効であることを示しており、トシリズマブのドラッグリポジショニングの可能性を見出している。
以上の結果より、本年度における研究成果は、当初の計画以上に発展しており、新たな腫瘍転移抑制法開発の基盤研究が進んでいると考えられる。

今後の研究の推進方策

本年度の研究によって、骨肉腫細胞におけるIL-6の誘導は、MEK/ERK1/2/hypoxia-inducible transcription factor-1a (HIF-1a)経路を活性化して解糖系を亢進させるということ、またintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)の発現を亢進させることによって肺転移が促進されることも明らかにした。さらに、骨肉腫細胞株におけるTET2やIL-6の誘導をノックダウンすると解糖系シグナルが抑制され転移が抑制されるということ、またIL-6受容体モノクローナル抗体が骨肉腫の肺転移抑制に有効であることを示した。今後は骨肉腫以外の腫瘍においてIL-6シグナルが代謝変容や転移に関与しているのかどうかを明らかにする必要がある。
また、ANGPTL2高発現癌細胞の解糖系亢進メカニズムの解明は現在進めている。以前用いていた細胞株と異なる細胞株を用いてANGPTL2高発現癌細胞株を樹立し、再度解糖系シグナルについて解析を行ったが、細胞株を変えても解糖系が亢進していることを確認しており、現在解糖系に関与するさまざまな酵素の発現状況などを解析中である。
ANGPTL2シグナル経路の活性化を抑制する中和抗体の探索は、現在in vitroのレベルで、その候補を見出し、検討を重ねている。今後は、その抗体がどれくらいの濃度でANGPTL2シグナルを抑制するのか、また担癌マウスモデルにおいては、どの程度の量を用いることで、癌浸潤・転移を抑制できるのかを検討していく必要があると考えられる。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件)

  • [雑誌論文] TET2-dependent IL-6 induction mediated by the tumor microenvironment promotes tumor metastasis in osteosarcoma.2018

    • 著者名/発表者名
      Itoh H, Kadomatsu T, Tanoue H, Yugami M, Miyata K, Endo M, Morinaga J, Kobayashi E, Miyamoto T, Kurahashi R, Terada K, Mizuta H, Oike Y.
    • 雑誌名

      Oncogene

      巻: 印刷中 ページ: 印刷中

    • DOI

      10.1038/s41388-018-0160-0.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Association of circulating ANGPTL 3, 4, and 8 levels with medical status in a population undergoing routine medical checkups: A cross-sectional study.2018

    • 著者名/発表者名
      Morinaga J, Zhao J, Endo M, Kadomatsu T, Miyata K, Sugizaki T, Okadome Y, Tian Z, Horiguchi H, Miyashita K, Maruyama N, Mukoyama M, Oike Y.
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 13 ページ: e0193731

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0193731.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Age-dependent increase in angiopoietin-like protein 2 accelerates skeletal muscle loss in mice.2018

    • 著者名/発表者名
      Zhao J, Tian Z, Kadomatsu T, Xie P, Miyata K, Sugizaki T, Endo M, Zhu S, Fan H, Horiguchi H, Morinaga J, Terada K, Yoshizawa T, Yamagata K, Oike Y.
    • 雑誌名

      J Biol Chem

      巻: 293 ページ: 1596, 1609

    • DOI

      10.1074/jbc.M117.814996.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Angiopoietin-like protein 2 promotes chondrogenic differentiation during bone growth as a cartilage matrix factor.2018

    • 著者名/発表者名
      Tanoue H, Morinaga J, Yoshizawa T, Yugami M, Itoh H, Nakamura T, Uehara Y, Masuda T, Odagiri H, Sugizaki T, Kadomatsu T, Miyata K, Endo M, Terada K, Ochi H, Takeda S, Yamagata K, Fukuda T, Mizuta H, Oike Y.
    • 雑誌名

      Osteoarthritis Cartilage

      巻: 26 ページ: 108, 117

    • DOI

      10.1016/j.joca.2017.10.011.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Circulating ANGPTL2 Levels Increase in Humans and Mice Exhibiting Cardiac Dysfunction.2018

    • 著者名/発表者名
      Tian Z, Miyata K, Morinaga J, Horiguchi H, Kadomatsu T, Endo M, Zhao J, Zhu S, Sugizaki T, Sato M, Terada K, Okumura T, Murohara T, Oike Y.
    • 雑誌名

      Circ J

      巻: 82 ページ: 437, 447

    • DOI

      10.1253/circj.CJ-17-0327

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Treatment of diabetic mice with the SGLT2 inhibitor TA-1887 antagonizes diabetic cachexia and decreases mortality.2017

    • 著者名/発表者名
      Sugizaki T, Zhu S, Guo G, Matsumoto A, Zhao J, Endo M, Horiguchi H, Morinaga J, Tian Z, Kadomatsu T, Miyata K, Itoh H, Oike Y
    • 雑誌名

      NPJ Aging Mech Dis

      巻: 3 ページ: 12

    • DOI

      10.1038/s41514-017-0012-0

    • 査読あり
  • [雑誌論文] ANGPTL2-A New Causal Player in Accelerating Heart Disease Development in the Aging.2017

    • 著者名/発表者名
      Oike Y, Tian Z, Miyata K, Morinaga J, Endo M, Kadomatsu T.
    • 雑誌名

      Circ J

      巻: 81 ページ: 1379, 1385

    • DOI

      10.1253/circj.CJ-17-0854

    • 査読あり

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公開日: 2018-12-17  

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