タンパクのアシル化修飾に関しては、ケトン体を介した制御機構の存在が知られている。ケトン体は糖・脂質代謝において重要な役割を担う代謝産物であり、近年ケトジェニック食による寿命の延長効果が報告されている。それらの知見に基づき、ケトン体による制御が明らかとなっているリシン残基のアセチル化とβヒドロキシブチル化(βOHB化)に着目し解析を進める方針とした。 まず、炭水化物を含まないケトジェニック食をマウスに投与し、投与開始1週間以降で血中ケトン体濃度が有意に増加することを確認した。一方で、投与を5週間継続したのち行ったグルコース負荷試験では、コントロール食投与群と比べて有意な血糖値の変化は認められなかった。 ケトジェニック食を6週間投与後にマウスの各臓器を摘出し、アセチル化及びβOHB化の変化について検討した。肝臓における検討では、whole cell lysate(WCL)でケトジェニック食群でアセチル化およびβOHB化の増加が認められた。さらにヒストンを抽出しその検討を行ったところ、アセチル化に関しては変化が認められなかった一方で、βOHB化に関してはWCLと同様にケトジェニック食群での増加が認められた。H3K9acやH3K9βOHBといった特異的な修飾についても検討を行ったが、同様の結果が得られた。 さらに、心臓や腎臓については肝臓と同様にWCLではアセチル化及びβOHB化の増加が認められたものの、ヒストンにおいてはβOHB化の増加のみが示された。脳においてはこれらのアシル化の増加は顕著ではなかった。 これらの結果から、βOHBの増加は酵素非依存的な経路でタンパク修飾を行う可能性がある一方で、アセチル化に関しては以前より報告されているHDACの阻害などの酵素依存的な経路が主たる制御機構である可能性が考えられた。
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