研究課題/領域番号 |
17K08670
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
小林 敏之 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40260070)
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研究分担者 |
高 ひかり 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60338374)
三浦 芳樹 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90279240)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 結節性硬化症 / 動物モデル / エピゲノム修飾 / アミノ酸代謝 / Tsc1遺伝子 / Tsc2遺伝子 / Bcat1遺伝子 / 腫瘍 |
研究実績の概要 |
本研究では、結節性硬化症(TSC)の病態発生の理解を進めるため、ラットTsc2欠損ES細胞、およびモデルマウス由来のTSC遺伝子欠損腎腫瘍細胞株を用い、エピゲノム修飾異常、代謝関連異常について解析を進めた。Tsc1欠損腎腫瘍細胞株に対し野生型Tsc1の発現を補う実験系を利用し、種々の代謝関連酵素の遺伝子発現がTsc1の発現、およびラパマイシン処理によって抑制されること、すなわちTSC1/TSC2-mTORC1の経路依存性制御が存在する可能性が示唆される。それら遺伝子の中で、ヒトがんの発生促進やてんかんに関わると推察されている分岐鎖アミノ酸アミノ基転移酵素(Bcat1)にまず着目した。Bcat1の発現を抑制するshRNAあるいはsiRNAによってTsc1欠損腫瘍細胞を処理したところ、細胞増殖が促進されることがわかった。一方、Bcat1を強制発現させた実験においては、腫瘍細胞の増殖が抑制される傾向が認められた。従って、Bcat1はTSC遺伝子欠損腫瘍の発生・進展に対し、抑制的に働いていることが示唆され、TSC遺伝子欠損による何らかのフィードバック機構の存在が想定される。一方、ES細胞の実験系においてはこれまでホモ変異体においてヒストンH3リジン4のトリメチル化(H3K4me3)の低下が認められることがわかっていたが、ホモ変異体で発現低下を示す遺伝子について調べたところ、ミトコンドリアのリン酸トランスポートに関連する遺伝子などが見出された。現在、さらに遺伝子の機能を調べると共に、質量分析を用いた代謝産物の分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はとりわけTsc1欠損腎腫瘍細胞株を用いた実験系において大きな進展が見られたと言える。主要な解析の一つである質量分析による代謝産物の分析は途上であるものの、遺伝子発現の分析結果をもとにBcat1の解析が進み、細胞増殖に対する発現変化の影響の基礎データが得られた。一つの重要な研究の標的を絞り込むことができた。ES細胞の実験については、神経細胞、心筋細胞の分化誘導実験の条件の至適化が予想よりも困難であり、展開が遅れていると言わざるを得ない。しかしながら、ホモ変異体における遺伝子発現に関する先行研究のデータをもとに代謝に関わる遺伝子の調べを進めるなど、補完的な分析を進めることができた。研究全体としてはおおむね進行は順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
Bcat1については、in vivoにおける造腫瘍能に対して発揮する働きをマウスの移植系を用いて明らかにする。また質量分析を用いて、Tsc1欠損腎腫瘍細胞株の代謝産物の網羅的分析を行い、Bcat1関連分子、それ以外の代謝産物についての動態を明らかにする。Bcat1はエピゲノム修飾に深く関わるαKGの産生に関わっていることから、とりわけその経路について注目し、またエピゲノム修飾の状態も調べ、関連性を追求する。一方、ES細胞については、神経細胞、心筋細胞分化誘導系の効率が未だ十分なものとは言えない状況であることから、その至適化も課題の一つとする。さらに条件検討を進め、エピゲノム修飾と代謝の動態をES細胞の分化誘導系において明らかにするための実験系構築を進め、実際に動態解析を進める。いずれの実験系においても、エピゲノム修飾の異常に関連する修飾酵素の活性動態を明らかにし、それらの活性誘導・抑制等による細胞増殖や分化異常の是正、治療薬への応用の可能性を追求する。
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