がんの生存、増殖、転移において、がん細胞は低酸素・低栄養状態の微小環境で活発な活動をするため、ダイナミックな代謝リプログラミングを起こし、ATP産生に加え細胞構造の材料となるタンパク質、脂質、核酸を大量に作り出している。近年、乳がん、大腸がん、卵巣がんなど様々ながん細胞において、脂質代謝の亢進が認められ、化学療法の標的として期待されている。しかしながら、がん細胞やその微小環境における脂質代謝やその制御機構は、未だ不明な点が多く残されている。 我々は、世界に先駆けてリン酸化酵素DYRK2の機能同定を行ってきた。これまでの解析から、乳がん細胞においてDYRK2発現低下は、①細胞周期の主要転写因子c-Junやc-Mycの発現亢進による、細胞周期進行、発癌の亢進、②上皮間葉転換(EMT)の主要転写因子Snail 発現亢進によるEMTの亢進、浸潤・転移の促進、③リプログラミング転写因子KLF4発現亢進による癌幹細胞性、化学療法抵抗性の亢進、④mTOR発現亢進による薬剤抵抗性の亢進を認めた。また、DYRK2 発現低下は、大腸癌、肝癌、肺癌、膀胱癌、リンパ腫、膀胱癌、卵巣漿液性腺癌など多数の癌で患者の予後不良と相関していることが見出されている。以上のことより、DYRK2は、がんの進展・転移の抑制を担う重要な分子であることが示唆されるが、マウス個体レベルにおける知見については全く不明である。本研究では、CRISPR/Cas9ゲノム編集法により作製したDYRK2ノックアウトマウスを解析し、DYRK2のマウス個体レベルでの生理的意義を明らかにする。 本年度では、DYRK2ノックアウトマウスの表現型の異常に関して、さらに解析を進めることができた。DYRK2ノックアウトマウスは、肺低形成による呼吸不全を引き起こし、出生直後致死となることがわかった。
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