マウス膵β細胞株・MIN6細胞のマイクロアレイ解析により、新規ストレス応答蛋白として、Chrno遺伝子を見出した。Chrno遺伝子は、2014年に、国内外の2つの研究グループにより、同時に報告された時計遺伝子である。 MIN6細胞やマウスの単離膵島において、低酸素刺激や薬剤性の小胞体ストレス刺激で、Chrono遺伝子の有意なmRNAの上昇、及びタンパク量の増加を認めた。マウスChrono遺伝子のプロモーター解析を行うと、小胞体ストレス経路の一つであるPERK経路で誘導される遺伝子・ATF4の結合部位が、イントロン1に存在した。そこで、ATF4欠損MEF細胞を用いて、小胞体ストレス刺激でのChrono遺伝子の発現について検討を行った。ATF4欠損MEF細胞では、野生型MEF細胞と比較し、小胞体外ストレスで誘導されるChrono遺伝子の発現は、有意に抑制された。現在、遺伝子のプロモーター活性について、ルシフェラーゼ活性を用いたレポーターアッセイを行っている。 Chrono遺伝子欠損マウスを理化学研究所より提供していただき、現在、耐糖能の評価などの実験を行っている。血糖や糖負荷試験を行ったが、明らかな耐糖能の異常は認めなかった。現在、高脂肪食を負荷し、体重の変化や耐糖能について解析を行っている。 本研究で、Chrono遺伝子が小胞体ストレス応答蛋白であり、PERK経路によって発現が誘導される事が明らかとなった。Chrono遺伝子は、コア時計遺伝子を抑制する機能を有する事が報告されている。Chrono遺伝子が、ストレス下において、時計遺伝子の発現を調節することにより、細胞障害に重要な機能を有している可能性が示唆された。生体での糖代謝における機能についてノックアウトマウスを用いて実験を行っているが、まだ、報告できる結果は得られていない。
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