研究課題/領域番号 |
17K08674
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
合田 亘人 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00245549)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ニューレグリン1 / 肝臓 / ヘパトカイン / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
肝臓から分泌されるニューレグリン1による糖代謝調節機構を明らかにするために、初年度は、マウスの肝臓にニューレグリン1遺伝子を強制発現させ解析を行った。肝臓特異的にニューレグリン1を一過性に過剰発現させたマウスを作出するために、C末にFlagタグを付加したマウスニューレグリン1遺伝子発現ベクター30マイクログラムを、HTVi法により6日毎に3回C57BL/6マウスに投与した。この手法により、外来性に投与したニューレグリン1タンパク質が肝臓に特異的に発現することを確認した。次に、このマウスの耐糖能を解析した。その結果、ニューレグリン1の過剰発現により、糖負荷後の血糖値の上昇が有意に低下することが分かった。また、糖負荷後の血中インスリン値は、負荷後15分値でのみニューレグリン1過剰発現群で有意に高値を示した。ピルビン酸投与により肝糖新生能を評価したところ、ニューレグリン1の過剰発現により抑制された。一方、末梢組織のインスリン感受性には影響が認められなかった。この結果に一致して、PEPCKやG6Paseなどの糖新生系酵素の発現と核内FOXO1の発現量が、ニューレグリン1遺伝子を過剰発現させた肝臓で減少していた。一方、骨格筋や脂肪組織におけるインスリン負荷後のAKTリン酸化レベルには変化が認められなかった。次に、糖負荷後のインスリン値が増加していたことから、膵ラ氏島を組織学的に解析した。その結果、ニューレグリン1過剰発現群において膵島サイズおよび膵島内Ki67陽性細胞数が有意に増加することが分かった。以上の結果より、肝臓に過剰発現させたニューレグリン1はオートクラインあるいはパラクラインを介して肝臓の糖新生を抑制する一方、膵臓に対してホルモン様に作用しラ氏島の増殖を促すことで糖負荷時のインスリン分泌を増強することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はほぼ計画通りに研究が進んだ。サンプル数を増やし、予備的検討により得られていた結果の再現性を確認した。具体的には、ニューレグリン1遺伝子の肝臓での一過性の過剰発現による、糖負荷後の血糖上昇抑制と初期インスリン分泌の亢進、細胞増殖によるラ氏島の肥大、の2つの応答の再現性を確認した。一方、ピルビン酸負荷試験で見いだしたニューレグリン1による肝糖新生能の抑制作用とこの結果に一致した肝臓における糖新生関連酵素の遺伝子発現と上位の転写因子の動態変化は、ニューレグリン1による肝臓への直接作用の存在を示すことに繋がったことは大きな成果と言える。 2型糖尿病モデルを用いたニューレグリン1の役割を解析するために、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた系の立ち上げに取り組んだ。アデノ随伴ウイルスベクター作成のための遺伝子導入効率の最適化に成功し、コントロールベクターとしてのEGFP発現アデノ随伴ウイルスベクターが投与後1週間経っても肝臓で発現することを確認した。現在、ニューレグリン1発現アデノ随伴ウイルスベクターの構築に取り組んでいることを考えると概ね順調に進んでいると言える。また、これと平行して肝臓特異的ニューレグリン1遺伝子発現マウスの樹立にも取り組んでおり、来年度実験が行える状態ができつつある。 一方、次年度に向けニューレグリン1の活性部位のEGF様ドメインを含む細胞外部のタンパク質を大腸菌で発現させることに成功した。また、粗精製したタンパク質が活性を有していることも確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、2型糖尿病に対するニューレグリン1の作用をin vivoで検証することに注力する。ニューレグリン1およびコントロールとしてのEGFPそれぞれの発現アデノ随伴ウイルスベクターを、高脂質・高糖質食(HFHS)を15 週間投与し2 型糖尿病病態を作成したマウスと遺伝性2 型糖尿病モデルマウスのob/ob マウスに投与する。前者では、HFHS投与開始時より、あるいは2型糖尿病病態が完成した後(15週目)から投与することで、ニューレグリン1が病態形成に対して予防的作用、また病態改善作用を示しうるか否かを検証する。後者では、生後5週目から、あるいは12週から投与することで、遺伝性2型糖尿病に対するニューレグリン1の作用を確認する。一方、抗糖尿病作用を示しうるタンパク質製剤としてのニューレグリン1の可能性についても検証を進める。投与するタンパク質は、ニューレグリン1の細胞外ドメイン全体あるいはその活性部位であるEGF様ドメイン部の2種のタンパク質を用いる。投与対象マウスは、正常マウスおよび食事誘導型と遺伝性の2型糖尿病モデルマウスとする。解析方法については、1年目同様、OGTTとインスリン分泌能測定などの生理学的解析、膵臓の組織学的解析および生体内糖代謝関連分子の発現解析などを行う。さらに、培養細胞を用いて、ニューレグリン1の膵b細胞増殖作用についても併せて解析する。これらの解析を行うことで、ニューレグリン1の抗糖尿病作用メカニズムと治療薬としての可能性を検証する。
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