研究課題/領域番号 |
17K08680
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
萩山 満 近畿大学, 医学部, 助教 (60632718)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経変性 / 接着分子 / shedding |
研究実績の概要 |
緑内障や水頭症では眼内圧や脳室内圧の上昇(30-50 cmH2O)による不可逆的な神経細胞死が原因とされるが、圧付加に対する細胞応答の分子機序は未解明である。IgCAM型接着分子cell adhesion molecule 1(CADM1)は上皮や神経に発現し、細胞外傍細胞膜領域において酵素的に切断(shedding)される。肺気腫では、このsheddingが亢進し細胞内shedding断片(αCTF)が蓄積して、ミトコンドリア膜電位低下を惹起し肺胞上皮アポトーシスを誘導する。腫瘍狭窄により腸内圧が上昇し内腔が拡張した結腸では、筋層内神経の密度減少と神経CADM1のshedding亢進が見出され、圧付加による神経変性にCADM1 sheddingの関与が示唆された。この可能性を検証するため、半透膜付き培養インサートに細長い円筒を垂直に接続することにより、円筒内の水柱の高さ分の圧力を細胞が受ける2チャンバー培養装置を作製した。水柱50 cm下での培養時に半透膜直上のpH、O2・CO2ガス分圧は下チャンバーと変わらないことを確認した。マウス後根神経節細胞(DRG)を本装置で培養したところ、30 cmH2O以上の水柱下培養で、CADM1 sheddingが亢進しαCTFが増加した。その時、神経軸索は狭小化し数が減少するとともに、軸索上に節状の腫大が出現した。これらの軸索変性所見はDRGにαCTFを遺伝子導入することでほぼ完全に再現された。以上の結果から、圧付加によって神経軸索では、CADM1のshedding亢進が惹起され、その結果過剰に産生されたαCTFが軸索変性を招来することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するために、半透膜付き培養インサートに細長い円筒を垂直に接続することにより、円筒内の水柱の高さ分の圧力を細胞が受ける2チャンバー培養装置を作製した。この装置を用いて細胞を培養したところ、半透膜直上のO2・CO2ガス分圧は下チャンバーと変わらないことを確認し、圧付加による影響を評価することができる培養系を確立したため。 腫瘍による内腔閉塞に起因する腸内圧上昇によって内腔が拡張した大腸癌の手術標本を収取した。組織学的手法により、腸管神経系のアウエルバッハ筋間神経叢神経節細胞数の減少、筋層内神経線維の変性所見(軸索腫大、数の減少)を認めた。筋層から蛋白抽出を行いCADM1抗体によるウエスタンに供したところ、CADM1 shedding率(全長型に対するαCTF量)・αCTF発現量がともに増加することを明らかにしたため。 マウス後根神経節細胞に30~40 cmH2Oの圧を付加することによってCADM1 sheddingが惹起されることを見出し、神経変性にCADM1 sheddingが関与する可能性を示唆することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
A.静的圧力に対する神経細胞変性の分子基盤 遺伝子・蛋白発現の網羅的解析:水柱下培養後の細胞からRNA、及び蛋白を抽出し、水柱の高さが異なる2群間(例えば10 cmと40 cm)で、 遺伝子発現解析(DNAマイクロアレイ)及びプロテオーム解析(2D-DIGE+LC-MS/MS)を行う。得られたデータを基にパスウェイ解析等を行い、静的圧力による細胞変性・アポトーシスの分子経路全体像の把握を目指す。 B.内圧上昇による神経変性のin vivoでの実態解析 (1)腸内圧上昇による腸管神経叢変性:①腫瘍による内腔閉塞に起因する腸内圧上昇によって内腔が拡張した大腸癌の手術標本を収取する。組織学的手法により、腸管神経系のアウエルバッハ筋間神経叢神経節細胞の数・アポトーシス率(TUNEL陽性率)、筋層内神経線維の変性所見(軸索腫大、数の減少)を定量し、内腔の拡張率(∝腸内圧)との相関性を調べる。(2)眼内圧上昇による網膜神経節細胞変性(緑内障モデルDBA/2Jマウス):①本マウスでは6~12ヵ月齢で眼圧が上昇する(ピークは9ヵ月で約30 cmH2O)。次の月齢時に手持ち眼圧計(トノラボ)にて眼圧を測定し、網膜を採取する。②組織学的な手法により、網膜神経節細胞の数・アポトーシス率(TUNEL陽性率)、網膜神経節細胞の軸索の変性、数(密度)や長さを定量し、眼圧の変化及びCADM1発現や候補分子の発現との相関性を調べる。③凍結切片のマイクロダイセクションにて採集した網膜神経節細胞はCADM1の2種類のスプライシング・アイソフォーム(上皮型と神経型)を発現しており、スプライシングへの影響も疑われるので、RT-PCRを行い、検証する。④Aの網羅的解析にて得られた新規遺伝子群・分子群についても発現検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画において本研究計画の1年目、2年目においては、細胞培養実験が主体となり、また現有の設備だけでは少し手狭になる可能性があったので、標準的なCO2培養器及びクリーンベンチ1台の新規購入を希望していた。本年度は現有の設備整備がうまくいかずまだ購入に至っていないため。今後、確立した水柱下培養装置の作製も行い、現有の設備を拡大して実験を進める予定である。
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