研究課題
緑内障や水頭症および腸閉塞や結石症などでは、内圧上昇によって神経・粘膜上皮の変性が生じる。その圧の閾値は20-30 cm水柱と低圧で、臓器によらずほぼ一定である。この軽微で慢性的な圧付加に対する細胞応答の分子基盤は未解明である。本研究課題を遂行するため、半透膜付き培養インサートに細長い円筒を垂直に接続することにより、円筒内の水柱の高さ分の圧力を細胞が受ける2チャンバー培養装置を作製した。マウス後根神経節細胞(DRG)を本装置で培養したところ、30 cmH2O以上の水柱下培養で、IgCAM型接着分子CADM1の細胞外切断(shedding)が亢進し、切断産物であるαCTFが増加した。形態学的には、神経軸索の減少・狭小化とCADM1分子の凝集が観察された。これらの軸索変性所見はDRGにαCTFを遺伝子導入することでほぼ完全に再現された。以上の結果から、圧付加によって神経軸索では、CADM1のshedding亢進が惹起され、その結果過剰に産生されたαCTFが軸索変性を誘導することが示唆された。閾値相当の水圧が上皮細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。円柱状の形態を示す上皮細胞(MDCK等)に15、30、50 cmと付加圧を増加させると、細胞倍化時間は有意に延長し、細胞は扁平化して体積は1.5倍になった。上皮由来ながら球状の形態を取る細胞(KATO-III等)や紡錘形の間葉系細胞(NIH3T3等)では有意な変化はなかった。円柱形上皮細胞のファロイジン染色及びHippo経路分子のウエスタン解析を行った。50 cm水柱下で体積増加に伴ってアクチン線維の分布が疎になったが、1細胞当たりの総量は変化しなかった。またYAPのリン酸化が亢進し、細胞質局在量が増加していた。以上より、内圧上昇は細胞増殖と細胞形態及び細胞骨格の連関及びHippo経路に直接的に作用し粘膜変性を惹起すると考えられた。
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Front Cell Dev Biol
巻: 7 ページ: 111
doi: 10.3389/fcell.2019.00111.