研究課題/領域番号 |
17K08686
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
横山 俊史 神戸大学, 農学研究科, 助教 (10380156)
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研究分担者 |
星 信彦 神戸大学, 先端融合研究環, 教授 (10209223)
三木 崇範 香川大学, 医学部, 教授 (30274294)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 性分化 / AMH / ミュラー管退行 / dmrt3 / cerebral palsy / B6N-YPOS |
研究実績の概要 |
Y染色体上に存在するSryの遺伝子修飾状況並びに性分化関連因子の発現状況について解析を行い,下記の点を明らかとしている. Sry下流で雄性化に関与するdmrt1の発現制御機構について詳細に検討する中で,同領域の直上に真獣類特異的レチノイン酸レセプター結合領域を発見した.そのエピジェネティックな修飾状態および機能の解析結果から,dmrt1の下流で大脳皮質及び脊髄の発生に関連するdmrt3の発現制御に関与しており,同遺伝子はマウスおよびウマにおいて運動の統合に機能していることが明らかとなった.同領域の配列異常により脳性麻痺の生じる症例からも,両者の関連が強く示唆された(論文1). 発生中の雄生殖腺で産生される抗ミュラー管ホルモン(AMH)は,雄動物のミュラー管を退行させるが,真性半陰陽動物では卵巣側のミュラー管は退行しない.AMHが血液を介して作用する場合,両側のミュラー管が退行するため,精巣側のミュラー管にのみ作用する詳細な作用機序について,特異的な遺伝子発現制御がなされているかを含めて詳細に解析した.その結果,AMHは血液による全身循環ではなく精巣の頭側部から中腎領域まで組織内を浸潤する様式で移行し,ミュラー管を退行させることが明らかとなった(論文2,発表1). C57BL/6Jにposchiavinus種由来のY染色体を導入したマウスB6J-XYPOSは正常な精巣を形成しないが,B6N背景に置換した場合は両側に精巣を有する個体を含む性スペクトラムの表現型を呈した[Umemura et al.,2015].すなわち,Y染色体の遺伝子発現制御に遺伝的背景差異が影響する可能性が想定されたためB6J背景に再置換すると,精巣を有する個体が出現しなくなり,B6JとB6Nの遺伝的背景の差が,Y染色体の遺伝子発現制御及び生殖腺の表現型に影響を及ぼすことが示唆された(発表2).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Y染色体上の特定領域(Sry周辺領域)の解析ではなく,Y染色体全体における修飾状況の解析を目指しているため,全ゲノムでの解析を行っている.その為には次世代シークエンサーでのリード数を伸ばさざるを得ず,費用的に高額となっている.リード後のシークエンスの解析まで外注の形を取った場合,実験費用を賄いきれないため,シークエンスの過程のみ外注し,その後の解析を手で行っているため,当初想定より時間がかかっている.一方で現在解析中のデータには興味深い知見を含んでおり,データベースに登録されている既存のデータとの照合を続けることで,性分化関連因子の発現制御機構の解明に繋がるデータを提供可能である. 性分化に関連する周辺因子および下流因子の調節機序の解析については順調に進んでいる.前項で述べたように,当初,性分化関連遺伝子の発現制御領域と想定された領域が異なる機能を有していた点,長期間不明であったAMHの作用機序の詳細について解明している.さらに,マウス系統間の遺伝的背景の差異,すなわち遺伝子配列もしくはそのエピジェネティックな修飾状況の差異が性分化に関与することを見いだしている.これらの動物における遺伝子配列およびその遺伝子修飾状況等の解明を行うことで,本研究で目的とする性決定および性分化を制御するY染色体における遺伝子修飾について解析可能となる.これらの点に関しては,現在の解析を継続的に実行する.
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今後の研究の推進方策 |
性分化に関する知見はここ1年でも大きく前進しており,性分化関連因子の発現制御の複雑性と厳密な時空間的制御を受けることが明らかとなっている.申請者らの現段階における検討結果でも,従来性分化制御に関与すると思われた領域が神経発生に関与しており,遺伝的背景の差異が性分化関連因子の発現制御に関連することが明らかとなっている.さらに,性分化関連因子の発現状況を含む,多数の網羅的遺伝子発現解析の結果がデータベースに加えられている. 本年度はこの状況を踏まえ,胎子期の未分化生殖腺のエピジェネティックな修飾状況の解析を続ける.本年度に配分している研究予算を用いて解析試料を追加すると共に,網羅的解析の結果との照合を続ける.データベースに登録されている網羅的解析の結果の多くは,生殖腺や性分化関連因子の発現状況を直接的に示すものではないが,性分化関連因子の制御領域における転写制御因子の結合状況および遺伝子修飾の状況,生殖腺内の細胞における転写因子の結合状況,さらには性分化関連因子が結合する領域の探索時に多くの情報を提供可能である.加えて,DNA配列の立体構造と転写因子の結合状況について,計算することが可能となってきている. 一方,昨年度まで解析してきた,生殖腺分化時における遺伝子発現状況の変化およびマウス系統間の遺伝子配列の差異の検討も続け,これらから得られたデータを修飾状況の解析に加えると共に,解析試料の追加を行う. これらの検討を統合する事により,性分化機構におけるエピジェネティック修飾について大きな知見を得ることが可能であると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
論文の校閲・投稿費用の一部を別予算で精算したため,余剰分として残る形となった.次世代シークエンサーでの解析には多額の費用が必要であるため,試料数を追加する予算に充当する予定である.
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