研究課題
インプリント遺伝子の発現制御の中心はgametic DMR(gDMR)と考えられてきたが、我々は、somatic DMR(sDMR)も遺伝子発現制御に重要で病態に関与していることを明らかにしてきた。しかし、sDMRに関する知見は少なく、特に発生初期の着床後にsDMRが確立する分子機構については未解明である。本研究では、マウスのインプリンティング座位Igf2r/Airn領域を対象にshRNAライブラリースクリーニングを用いてsDMR確立に関する制御因子を同定し、その分子機構を明らかにする。shRNAライブラリーは、9,145のマウス遺伝子を55,000のshRNAでカバーしている。一次スクリーニングで得られた候補遺伝子の中から、遺伝子機能を考慮して6種に絞り込み、用いたshRNAライブラリーに含まれる当該遺伝子に対するshRNAと同じ配列を持つshRNAレンチウィルスを用いてそれぞれの遺伝子を個別にknockdown(KD)することで二次スクリーニングを行った。しかし、KD効率が予想外に悪く、DNAメチル化解析、遺伝子発現解析ができなかった。そこで、CRISPR-Cas9システムを用いてknockout(KO)することした。各遺伝子に対して複数のgRNAをデザインし、ES細胞へ導入し、それぞれのgRNAについて複数のKOクローンを得た。標的部位におけるindelを確認したのち、インプリント遺伝子(Igf2r, Airn)のアレリックな発現状態およびDMRのメチル化状態を解析しているところである。これまでに、6種の候補遺伝子のうち2種類については、インプリント遺伝子発現状態およびDMRのメチル化状態に変化が認められなかったため、sDMR確立に関する制御因子ではないことが示唆された。
3: やや遅れている
一次スクリーニングに用いたshRNAと同じ配列を用いて二次スクリーニングを行ったが、KD効率が予想外に悪く、CRISPR-Cas9システムを用いてKOすることした。CRISPR-Cas9システムのために、各遺伝子に対するgRNAのデザイン、ベクターの作成、KOクローンの取得、標的部位における変異の確認などに時間がかかった。
1.候補遺伝子として残っている4種類の遺伝子について、CRIPSR-Cas9システムによる二次スクリーニングを行う。この際、コントロールとしてDnmt1のKO細胞を作成する。また、KO(両アレルKO)だけでなく、ハプロ不全による影響も考慮し、KOヘテロ接合細胞も解析対象とする。2.二次スクリーニングで陽性となった遺伝子のChIP解析により、Igf2r/Airn領域のsDMRへの結合の有無および結合アレルを解析する。また、RNA免疫沈降法(RIP)によりAirn (noncoding RNA)への結合の有無を解析する。3.クロマチン構造解析制御因子自身に対する抗体を用いて、ChIA-PET法(Chromatin Interaction Analysis by Paired-End Tag Sequencing)を行い制御因子によるクロマチンループ構造を明らかにする。市販の抗体が使えない場合は、当該制御因子のC末端に3xFLAGタグを付加した細胞を作製し、抗FLAG抗体を用いて解析する。
各種試薬の節約、効率的な使用方法により出費を抑えることができた。また、講座費等で一部分を賄った。次年度は、主として二次スクリーニング(細胞培養、DNAメチル化解析、遺伝子発現解析)およびChIP解析に必要な消耗品に研究費を充てる。その他、成果発表のための旅費、英文校正費等に使用する予定である。
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