研究課題/領域番号 |
17K08697
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
小山内 誠 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (60381266)
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研究分担者 |
澤田 典均 札幌医科大学, 医学部, 名誉教授 (30154149)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ビタミンA / レチノイン酸 / レチノイン酸代謝酵素CYP26 / 星細胞 / 腎メサンギウム細胞 / 糖尿病 / 糖尿病性腎症 |
研究実績の概要 |
本研究は,腎糸球体メサンギウム細胞の機能異常が,糖尿病性腎症の根本的な原因と考え,メサンギウム細胞を標的として,糖尿病性腎症の発症機序を明らかにし,病態の進行を抑制する治療法の開発をめざす. レチノイン酸前駆物質であるビタミンAの約80%は,全身のビタミンA含有細胞=星細胞に貯蔵されている.この細胞の働きは,細胞内レチノイン酸量に依存し,レチノイン酸欠乏状態で多様な病態をひきおこす.例えば,糖尿病では,レチノイン酸を枯渇する腎糸球体内で,活性化メサンギウム細胞が誕生する.その結果,血管内皮細胞と星細胞からなる機能ユニット内で,毛細血管にあるタイト結合のバリア機能異常がおこる.そのため,血管透過性が亢進し,糖尿病性腎症の初期病変を形成する. 昨年度の予備実験から,1) 糖尿病性腎症では,腎糸球体内のレチノイン酸が欠乏し,2) レチノイン酸不足の原因のひとつにCYP26A1の発現異常があり,3) その結果,メサンギウム細胞を中心とする血管内皮細胞・星細胞機能ユニットへ影響を与え,血管内皮細胞のバリア機能の異常をひきおこす,との知見を得た. これまで,星細胞は,いわば“脇役”であった.しかし,レチノイン酸を用いて,星細胞を起点に腎糸球体の機能異常を理解する試みは,これまで類がなく,さまざまな疾患病態を直接制御する“主役”の可能性がある.また,星細胞を中心とする機能ユニット全体を薬理学的に制御する戦略は,チャレンジ性の高い研究プロジェクトである.本年度以降も研究課題を継続し,糖尿病におけるメサンギウム細胞の機能異常を理解し,新しい治療戦略と予防法を探索したい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腎メサンギウム細胞は,多種類が販売されている.申請者があらかじめ入手した細胞種は,生理的,および薬理的濃度のレチノイン酸に対する反応性が乏しく(原因不明),本細胞の機能解析は困難であった.しかし,新たな細胞種の購入にあたり,輸入処理に時間を要し,培養条件の検討も必要となり,当初の予定より計画が遅れた.また,血管内皮細胞の細胞種も,今後,見直しが必要かもしれない.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を実施し,糖尿病性腎症におけるメサンギウム細胞の機能異常を理解する試みを継続し,以下の点を明らかにしたい.1) メサンギウム細胞が,血管内皮細胞間のタイト結合をパラクライン機構によって安定化し,血管内皮細胞のバリア機能を制御する分子機構.2) メサンギウム細胞のレチノイン酸不足の原因であるCYP26A1の発現異常と,メサンギウム細胞を中心とする血管内皮細胞・星細胞機能ユニットへの影響.3) レチノイン酸欠乏状態で誕生する活性化メサンギウム細胞の病態生理.活性化機構の解明は,新しい治療手段を開発するための基盤的情報となる. 本研究室は,“星細胞機能ユニット”の概念を世界で初めて提案した.例えば,血管バリアの破綻に起因する糖尿病網膜症に対し,レチノイン酸投与による網膜星細胞機能の正常化が病状に好転をもたらすことを明らかにし,2件の知的財産権の獲得にも成功した.星細胞を標的とし,糖尿病性腎症を治療または予防する戦略は,きわめて独創的であり,臨床的に重要である. 全透析患者の40%以上は,糖尿病性腎症が原因である.透析を導入する基礎疾患としてもっとも多く,疾患の発症を制御する戦略の創出は,社会的に急務である.糖尿病腎症の初期変化を予防できれば,理論上,病態の進行を予防あるいは遅延化できる. 多くの病気は,一定程度進行してから診断される.しかし,病気によっては,診断できてからでは遅いものがあり,発症前の対策,すなわち先制医療が求められる.星細胞標的療法は,病態の進行を制御するばかりか,病気の発症前に介入する,いわば精密医療をめざす予防法である.
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備考 |
申請者の所属する研究室のホームページの全体を刷新し,研究成果の全体,もしくは一部を公表する準備段階にある.ホームページは,本年度中の早い段階で完成する予定である.
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