研究課題
本研究の目的は,星細胞を起点として,その機能異常を原因とする多彩な疾患の病態を理解し,新しい治療戦略を創出することである.これまで,星細胞は,いわば,脇役であった.しかし,さまざまな疾患病態を直接制御する主役の可能性がある.とくに,腎糸球体メサンギウム細胞の機能異常が,糖尿病性腎症の根本的な原因と考え,メサンギウム細胞を標的として,糖尿病性腎症の発症機序を明らかにし,病態の進行を抑制する治療法の開発をめざすことを目標とした.レチノイン酸前駆物質であるビタミンAの約80%は,全身のビタミンA含有細胞=星細胞に貯蔵されている.この細胞の働きは,細胞内レチノイン酸量に依存し,レチノイン酸欠乏状態で多様な病態をひきおこす.例えば,糖尿病では,レチノイン酸を枯渇する腎糸球体内で,活性化メサンギウム細胞が誕生する.その結果,血管内皮細胞と星細胞からなる機能ユニット内で,毛細血管にあるタイト結合のバリア機能異常がおこる.そのため,血管透過性が亢進し,糖尿病性腎症の初期病変を形成する.進行期では,メサンギウム細胞は,過剰な細胞外マトリックスを産生し,腎組織の線維化が進行し,最終的に糸球体硬化症に至る.同概念に立脚し,糖尿病におけるメサンギウム細胞の機能異常を明らかにした.糖尿病性腎症は,糖尿病の深刻な合併症で,最終的に腎不全に至る.重症腎不全からの回復は困難であり,生涯,透析療法を受ける必要がある.これまで,さまざまな治療法が提案されてきたが,充分とはいえなかった.レチノイン酸を用いて,星細胞を起点に腎糸球体の機能異常を理解する試みは,現状で類をみない.また,星細胞を中心とする機能ユニット全体を薬理学的に制御する戦略は,チャレンジ性の高い研究プロジェクトである.本研究課題を通して,腎メサンギウム細胞を標的として,糖尿病性腎症の発症や進行を抑制する治療法の開発に向けた基盤的情報を得た.
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