研究実績の概要 |
組織構築に必要不可欠である細胞接着分子は、細胞内シグナルを活性化することで細胞分化・増殖・生存・遊走・極性など様々な細胞機能を制御している。しかし、その分子メカニズムは長い間不明であった。 我々はクローディン-6 (CLDN6)による細胞接着を起点とするシグナルが、レチノイン酸受容体 (RARgamma)とエストロゲン受容体 (ERalpha)のセリンリン酸化に至り転写活性を制御する「細胞接着-核内受容体シグナル伝達経路」を発見した (Sugimoto et al., PNAS, 116: 24600-24609, 2019)。興味深いことに、このコンセンサスリン酸化配列はヒト核内受容体48種類中14種類で保存されており、その生物学的受容性が強く示唆された。 一方子宮体癌では、CLDN6の異所性発現が強力かつ独立した予後不良因子となることを明らかにした(子宮体癌患者の予後予測バイオマーカー, PCT/JP2019/12503)。例えばCLDN6高発現症例の5年生存率は30%で低発現群の90%に比べ著しく低く、臨床病理学的因子のうち進行期分類III/IV、組織グレード3、脈管侵襲、リンパ節転移及び遠隔転移がCLDN6高発現と有意な正の相関を示した。また多変量解析では、CLDN6高発現群のハザード比は3.50 (p=0.014)であった。さらに分子生物学的アプローチにより、癌細胞がCLDN6-ERalphaシグナルを乗っ取ることで悪性形質が増強されることを突き止めた (Kojima et al., submitted, https://doi.org/10.1101/2020.05.15.097659)。これらの結果から、「細胞接着シグナルが転写因子活性を制御することによってがんの進行を促進する」分子機序の存在が明らかになった。
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