研究実績の概要 |
これまで胃癌において胎児消化管類似癌の解析を行ってきたが、大腸癌における解析も行った。2014年~2018年に切除された大腸癌1666例中5例(0.3%)に胎児消化管類似癌を見出した。全例で脈管侵襲を認め、3例で遠隔転移(肝転移2例、肺転移1例)を認め、高悪性度であることが示された(Murakami T, et al, 2020)。 さらに、988例の大腸癌に対してティッシュマイクロアレイ法を用いて胎児消化管上皮のマーカー(AFP, Glypican 3, SALL4)の免疫染色施行し、いずれか一つのマーカーが陽性となった39例(4%)が抽出され、すでに胎児消化管類似癌と診断されていた3例を加えた42例での臨床病理学的および分子生物学的解析を行った。胎児消化管類似癌に特徴的な淡明な細胞質の有無に関わらず、胎児消化管上皮のマーカーの大腸癌は悪性度が高いことが判明した。分子生物学的には通常の大腸癌と比較してTP53の変異が高頻度で、HER2陽性の頻度はやや高く、MSIには差はなかっ(Yamashiro Y, et al HIstopathol in press. doi: 10.1111/HIS.14158)。 大腸においても胎児消化管類似癌は存在し、胎児消化管上皮のマーカー陽性の癌は高悪性度であることが判明した。これらの研究結果は少なくとも今後の大腸癌治療戦略に有益となることが期待される。 胃胎児消化管類似癌の解析も引き続き行い、SMAD4に関してその変異は認めなかったものの、LOHが高頻度にみられたことから、胃胎児消化管類似癌においてSMAD4は疾患感受性のある遺伝子のひとつと考えられた。さらに、SMAD4の免疫染色の陰性化やメチル化は胃胎児消化管類似癌の高悪性度化の獲得に寄与している可能性も示唆された(Yatagai N, et al. Hum Pathol, 2019) 。
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