欧米ではバレット腺癌(BC)は腸型上皮(I型)から発生すると考えられており、バレット食道の定義に腸型上皮を必須としている。しかし、我々はこれまでに早期癌に隣接する粘膜の正常から組織発生学的に噴門型の上皮から発生するBCも存在することを報告してきた。今回、生検組織を用いて、その後のフォローアップ中にバレット癌の発生した組織と発生しなかった組織とで染色体不安定性に差があるかどうかを検証することを目的として研究を計画した。研究対象として、日本では病変のないバレット食道からは生検を行わないことが多く、上皮の検体を得ることが難しいことから、ドイツで行われたバレット食道のランダム生検組織で腫瘍性病変のないものを用いて行うこととした。方法としてはそれらの標本に施行した免疫染色により噴門型・腸型の上皮に分類し、我々独自の組織切片を用いたQ-FISH法を用いて、各上皮のテロメア長を解析し、フォローアップ後に腺癌の発生した症例と発生のない症例とで比較を行う計画であった。 研究開始後に研究目的に合致した「病変がない生検組織」で「フォロー後に癌の発生した」症例が予定よりも著しく不足していることが 明らかとなった。なかなか合致する症例は増えず、さらにドイツにおける共同研究および検体供与の手続きが以前よりも厳しくなったことから当初の予定よりも検討可能であった症例数が少なくなった。 解析の結果、症例は予定よりも少なくなったが、解析を完了した。症例によってテロメア長の差が大きく、全体で比較すると腸型と噴門腺型とでは有意な差がなかった。症例ごとの差が大きいことは、さらに詳細な臨床情報や、部位などの検討が必要であり、日本国内での検体を用いた検討が必要であると考えられた。
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