浸潤性粘液性肺腺癌は、WHO第4版で新たに定義された腺癌の1亜型である。この腺癌は、臨床的にも分子生物学的にも通常型肺癌と異なる性質を持つことが知られている。例えば、通常型に比べて肺内転移を来しやすいなどの特徴がある。浸潤性粘液性肺腺癌については、取り切れれば非常に予後が良いものから、肺内転移を高度にきたし、死に至らしめるものまで様々な悪性度の腫瘍が包括されるが、それらの悪性化メカニズムに関しては、あまり知られていない。今回申請者は、早期の浸潤性粘液性肺腺癌および進行期の浸潤性粘液性肺腺癌の新鮮凍結材料からmicrodissection法を用いてRNAを抽出し、RNA sequence法を用いて解析し、比較検討を行った。まず、Edge R法を用いて発現解析を行った。p<0.05、Fold change>50をカットオフとして解析を行ったところ、進行している浸潤性粘液性肺腺癌において発現が亢進している遺伝子が66種類同定された。DAVIDを用いた検索においては、chromatin organizationに関する遺伝子群に最も差があるという結果であった。申請者は、その遺伝子リストにおいても含まれているHMGA2という遺伝子に注目した。また、IPAを用いたTop Analysis-Ready Molecules においても、発現解析のp-valueにおいてもfold changeにおいても候補として挙がったMUC16という遺伝子にも注目した。次に、1999年~2015年までの肺腺癌手術材料の浸潤性粘液性腺癌35例についてHMGA2およびMUC16に対する免疫組織化学を用いて検索を行った。浸潤性粘液性腺癌の死亡例は3例であったが、いずれもHMGA2、MUC16が高発現していた。以上の結果から、HMGA2とMUC16の高発現が浸潤性粘液性肺腺癌の悪性化に関与している可能性が示された。
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