研究課題/領域番号 |
17K08719
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平塚 拓也 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (90641639)
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研究分担者 |
鶴山 竜昭 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (00303842)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 病理学 / プロテオーム / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
本研究では、平成29年度においてCD5陽性DLBCLの症例を20例、陰性症例としてCD5陰性ABC type DLBCLの症例を20症例集め、これらの病理所見に更に患者の臨床情報(病歴、身体所見、検査データ、画像データ、その他フローサイトメトリー、遺伝子・染色体解析結果、in situ hybridyzation結果)を付加した良質な病理所見データベースの作成とFFPE標本からタンパク質を効果的に溶出するためのプロトコールの開発する計画であった。 病理所見データベースの作成については、まず上記の40症例について提供して下さる施設と連絡を取り、協議し、我々の施設と協力施設において相互に倫理委員会の承認を得るなど研究体制の確立を行った。次いで40症例の選定、収集を行い、病理所見データベースの作成を行っている。 FFPE標本からタンパク質を効果的に溶出するためのプロトコールの開発については、その重要となる要因の一つが組織の破砕である。我々は用手法よりも効果的な方法として超音波による破砕、ビーズによる破砕を試した。いずれの方法においても用手法よりもタンパク質の溶出量を大幅に増やすとともに、ビーズによる破砕では多検体を同時に処理できるため、実験操作にかかる時間を大幅に軽減することに成功した。 次に溶出バッファーの検討を行った。溶出バッファーは30%アセトニトリル、クエン酸バッファー、Tris-Hcl、Urea、グアニジン塩酸にて検討した。これらの結果からはクエン酸バッファー、Tris-HclはそれぞれpHを変えて検討したが、30%アセトニトリルと収量は変わらなかった。一方Urea、グアニジン塩酸では様々な濃度を検討した結果、それぞれ2倍、4倍の収量の増加が得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、平成29年度においてCD5陽性DLBCLの症例を20例、陰性症例としてCD5陰性ABC type DLBCLの症例を20症例集め、その病理所見データベースの作成とFFPE標本からタンパク質を効果的に溶出するためのプロトコールの開発する計画であった。 病理所見データベースは、40症例について提供施設の選定や連絡体制の確立に時間がかかった。 FFPE標本からタンパク質を効果的に溶出するためのプロトコールの開発については、タンパク質の組織からの溶出における組織の破砕の検討を行った。我々は 超音波による破砕、ビーズによる破砕、用手による破砕などを試し、上記のようにビーズによる破砕がタンパク質の溶出量を増やすことができるとともに、実験操作にかかる時間を軽減できることを明らかにした。このために、装置の選定・新規購入や破砕時間、破砕回数の最適化が必要であり、そのためにも時間を要する結果となった。このようにビーズによる破砕法を導入したが、これに伴い、組織中のDNAが破砕されてしまい、実際に質量分析を行う際にサンプルの粘性が高まり、質量分析を行うことができないという問題が起こった。これをチェックするためのアガロースゲル電気泳動やDNA破砕が起こらないための条件検討が必要であった。これも時間が予想よりもかかった原因の一つである。 また、溶出バッファーの検討においては界面活性剤によるタンパク質溶出も検討しているが、Bradford法によるタンパク質濃度測定ができないため、現在BCA法の導入、そのための機器の選定・購入を進めており、これも結果が遅れる一因となった。
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今後の研究の推進方策 |
CD5陽性DLBCLの症例を20例、陰性症例としてCD5陰性ABC type DLBCLの症例を20症例集め、これらの症例に関してのデータベースを急ぎ完成させる。また、開発したタンパク質溶出プロトコールによる質量分析を行い、CD5陽性DLBCLにおけるバイオマーカーの探索を行う。 それと並行し、必要に応じて質量分析イメージングを行い、CD5陽性DLBCLに特異的なタンパク質の発現とその領域を調べる。それぞれのたんぱく質の発現領域、発現領域の周囲、発現していない領域に区分し、各区分での マクロファージ、M2型マクロファージの密度、血管の密度、細胞障害性 T細胞、制御性 T細胞の密度を算出する。これにより、細胞密度と、新規に見出したたんぱく質との分布相関を分析し、マクロファージの集簇や細胞障害性T細胞、制御性T細胞の密度との関係など微小環境への影響について明らかにする。 CD5陽性DLBCLと対照群であるCD5陰性ABC type DLBCLを、質量分析にて検出されたたんぱく質分子の発現の有無によりそれぞれ陽性群と陰性群の4群に分類する。それぞれ検出されたたんぱく質について、各々4群において初診時における非ホジキンリンパ腫の国際予後指数(年齢、血清LDH、Performance Status、病期、節外病変数)を比較検討し、予後に関する新規バイオマーカーを探索する。また、陽性群と陰性群での節外臓器への進展の有無、中枢神経再発の有無についても比較検討する。これにより、新たに病理診断に有効な予後因子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、ビーズを用いた破砕機などFFPE標本からのタンパク質抽出に必要な機器を選定、プロトコールを開発するのに時間がかかった。また、DNAの破砕などの予想外の問題も起こり、それに対応する必要があった。そのために当初予定していたSDS、zwittergentなどの界面活性剤の入ったバッファーを用いたタンパク抽出法の検討を行うことができなかった。また、これら当施設ではタンパク質の濃度測定にBradford法を用いていたが、界面活性剤の添加するプロトコールではBradford法は使用できず、BCA法によるタンパク質濃度測定を行わなければならない。これらの理由のために、上記実験に必要な試薬の購入を行うことがなかった。そこで、前年度の研究費に未使用額が生じたが、今年度には上記の試薬についても購入し、今年度行う予定の研究計画と併せて実施する。
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