研究実績の概要 |
皮膚のメルケル細胞癌(MCC)の多くがポリオーマウイルス(MCPyV)関連神経内分泌癌であると近年判明している。MCCの予後不良に関与する分子生物学的異常については十分解明されていない。SWI/SNF複合体はクロマチン構造の改変に関わる蛋白群で、癌抑制因子としての機能を持ち、その異常が多くの腫瘍の発生や進展に関わることが知られている。我々はMCCにおけるSWI/SNF複合体構成蛋白の発現異常と、それらが予後を含めた臨床病理学的因子に及ぼす影響を検討した。MCCの50例(MCPyV陽性30例,陰性20例)に対しBRG1, BRM, INI1, ARID1Aの免疫染色を施行し、発現の消失・減弱と臨床病理学的因子との比較を行った。BRG1, BRM, INI1, ARID1Aの消失・減弱はそれぞれ5例(10%), 2例(4%),0例,0例で見られた。BRG1の消失・減弱例とそれ以外との間で年齢、性別、病期、MCPyVの有無、予後を比較したが有意な差は認めなかった。MCCにおけるSWI/SNF発現異常の寄与は少ないと考えられる。 Long non-coding RNAのNEAT1(Nuclear Enriched Abundant Transcript 1)はparaspeckle形成に必須の因子で、ウイルス感染時に発現されて種々のcytokineを誘導することが知られている。MCC27例の解析でも、MCPyV陽性MCCはMCPyV陰性MCCより有意にNEAT1発現が高く、paraspeckle(SFPQ)も約2倍になっていた。MCPyV陽性MCCとSFPQ-ChlP seq dataで1.5倍以上増加した遺伝子から15種類のNEAT1関連遺伝子を同定した。その中の一つの接着因子関連遺伝子GNB1L2の蛋白発現がMCPyV陽性MCCで有意に高いことを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.免疫調節因子のIDO1と同じトリプトファン代謝経路でのTDO2酵素、キヌレニン、これらの標的であるaryl hydrocarbon receptor(AhR)の発現とMCCにおける腫瘍と腫瘍微小環境における発現と腫瘍ウイルスや予後等の臨床病理学的因子との相関を明らかにしたい。 2.同時に免疫調節因子として有名なPD-1, PD-L1のMCCでの発現とウイルス感染や予後などの臨床病理学的因子との相関を検索する。 3.MCCの発癌機序としてDNAミスマッチ修復機構に関与する遺伝子産物のMLH1, MSH2, MSH4,PMS2の発現の有無とウイルス感染や予後などの臨床病理学的因子との相関を検索する。 4.MCPyV感染のin vitro実験系の樹立に向けて試行を行う。 5.今まで学会発表しているが論文掲載に至っていないデータをできるだけ英文原著として投稿して掲載につなげる。
|