今年度はまず、ヒトグリオーマ細胞株(T98G、U251MG)を用い、高浸透圧がコロニー形成におよぼす影響を検討した。培養皿に細胞を少数まき、10日間培養し、形成された径1mm以上のコロニーの個数を数え、コロニー形成率を測定した。通常の培養液で培養していた細胞を、高浸透圧(350~400 mOsm/l)の培養液中でコロニー形成させた場合、T98G、U251MGともに、コロニー形成率は浸透圧が高いほど低下した。一方、細胞を通常または高浸透圧の培養液で3日間前処理してから、通常の培養液中でコロニー形成させた場合には、T98Gではコロニー形成率の変化は目立たなかったが、U251MGでは、高浸透圧で前処理した細胞では通常の培養液で前処理した細胞よりもコロニー形成率が上昇しており、高浸透圧による何らかの細胞変化がその後のコロニー形成能を亢進させる可能性が示唆された。 次に、無血清での培養によりタンパク発現量が増加するNFATc4について、低酸素条件(1%酸素)での培養による発現量の変化を検討したところ、低酸素条件下においてもタンパク量の増加を認めた。U87細胞株では、無血清または低酸素条件によって幹細胞マーカーNANOGの発現が誘導されるが、細胞にNFATc4のsiRNAを導入しておくと、無血清または低酸素条件下でのNANOG発現が抑制された。無血清または低酸素条件下では、NFATc4が腫瘍形成能の維持に関与している可能性が示唆された。 研究期間全体を通じて、ヒトグリオーマ細胞では、高浸透圧、血清欠乏、低酸素等の環境因子に対しNFATファミリー分子群(特にNFAT5とNFATc4)が応答していることが示唆された。
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