研究課題/領域番号 |
17K08727
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
土橋 洋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90231456)
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研究分担者 |
北川 雅敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50294971)
坪地 宏嘉 自治医科大学, 医学部, 教授 (50406055)
後藤 明輝 秋田大学, 医学系研究科, 教授 (90317090)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | TFF1-3 / mTOR / 転写制御 / 増殖抑制 / 浸潤 |
研究実績の概要 |
ヒト肺癌でmammalian Target of Rapamycin (mTOR)により発現抑制される新規分子としてmicroarrayからTrefoil factor-1 (TFF-1)を抽出した。培養細胞とヒト肺癌の両系で、TFF1とそのファミリー蛋白質の病理学的機能を解析した。 [方法] 1. 肺癌患者と健常者の血清、尿のELISAでTFF1-3を定量した。2.全組織型の肺癌培養細胞株、新たに樹立したTFF-1過剰発現株を用い、immunoblot, 定量RT-PCR, ELISAでTFF-1の細胞内発現、細胞外分泌量を定量した。3. 培養細胞にTFF-1 promotor領域1kbを組み込んだluciferase vectorを一過性導入し、mTORの変動によるpromotor活性の変化を解析した。4.TFF-1の全長cDNA導入ベクターで2種の細胞に構成的過剰発現させ、増殖能、浸潤能(matrigel assay)、遊走能(scratch assay)を解析した。 [結果] 1.尿中TFF-1,3は癌患者で有意に低値、血清TFF-2は癌患者で有意な高値を示した。2. TFF-1は肺腺癌細胞株で発現、分泌能が高く、他の細胞では微量であった。3. TemsirolimusによるmTORの抑制でTFF-1 promoter活性は有意に上昇した。4. TFF-1の過剰発現株では細胞死が亢進し、増殖能は相対的に抑制され、浸潤能/遊走能とも低下した。この効果はTFF-1のsiRNAで回避された。 [結論] TFF-1は肺癌で組織型特異的に発現し、mTORにより転写レベルで発現が抑制される。また潜在機能として細胞死を亢進、増殖/浸潤能/遊走能を抑制する可能性が考えられた。更にTFF-1分泌、排泄レベルは肺癌患者でバイオマーカーとなる可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が見出した、mTORの発現により変動する蛋白質であるTFF-1とそのファミリーに関してヒト肺癌と培養細胞の両系でその機能とバイオマーカーとしての有用性を解析するのが本研究の目的である。その観点から、 1. 肺癌、非腫瘍性肺疾患患者、健常者の血清、尿のTFF定量は検体採取数、解析数ともに順調な進捗状況と言える。また、術後患者のTFFの定量も経時的に開始したが、これに関しては症例数がまだ少なく、統計解析するレベルに達していないので、引き続きこの検体採取を進める。同時に、すべての患者の手術材料の病理組織切片も作成済みである。一部症例でTFF-1,2,3の特異抗体による免疫染色検索した結果、血清、尿中、あるいは培養細胞での動態とやや異なった結果を得ており、更に解析を進めている状況である。 2. 肺癌培養細胞における解析はTFF-1過剰発現株や種々の手法で発現、転写、増殖、浸潤の解析が進み良好な結果を得た。更に、細胞周期や細胞死の機序の解析も進行中である。蛋白レベルでの発現解析も遂行したが(既述)、現段階では血清、尿中レベルと密接に関わると推定される細胞外分泌レベルの詳細な解析が未検である。 3. mTORによるTFF-1の転写レベルでの制御まではluciferase assay等で明らかにしたが、その系に介在する転写因子の解析に難渋している。因子が多数存在することに加え、市販の転写解析解析試薬が一部入手困難な状況もあり、計画の修正を考えている(後述)。
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今後の研究の推進方策 |
1. 血清、尿のTFF定量において、統計的に有意なレベルとしての肺癌患者数とそれにマッチさせた健常者各200検体についてはほぼ終了したが、病的対照群としての非腫瘍性肺疾患患者検体100を目標に可能な限り採取を継続する。更に肺癌とTFFの直接的関係を確認するために、術後1, 3, 6, 12か月の定期検査時に採取している。この検索は開始後1年未満なので研究延長期間内に更に検体採取を続け、解析を終了させる。 2. 手術材料の病理組織切片を用いた検索は準備が完了しているので。染色を完了させる。 3. 肺癌培養細胞における解析はTFF-1過剰発現株の細胞周期、細胞死の機序はそれぞれpropidium iodide, annexin-5等のマーカーで染色後にflow cytometryで解析する。この方法で企業の技術指導を受けたので、早急に解析予定でる。また、TFF1細胞外分泌は培養細胞のconditioned mediumを凍結乾燥で濃縮後、ELISAで解析する。 4. TFF-1の転写制御解析は候補因子が多数あるが、蛍光抗体法染色によるスクリーニングでHNF-4, c/EBP, GATA3, GATA6に絞ったので、これらをELISAで、もしくは活性化型特異抗体を用いたimmunobottingで解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 本研究の2年目に、術後患者の検体も定期検査時に採取して、アッセイする計画を追加した。この解析の目的は、検体のTFFに関するバイオマーカーとしての定性解析の意味合いが強いが、術後の局所の炎症等の影響によりTFFが変動する可能性も鑑みる必要がある。よって12か月まで継続する計画としたため本研究を延長した。期間内に終了できる予定である。これは現有の機器、試薬でほぼ行えるので高額な消耗品費は必要としない。 2. TFF-1の転写制御因子を複数解析中だが、使用していた、あるいは使用予定であったELISA kitが生産中止、あるいは中断になり、解析が遅れた。生産再開を待つと同時に、他のkitを購入したので実験を再開している。また上述のようにELISA以外に、転写因子の活性化(リン酸化)を各蛋白質のリン酸化型特異抗体を用いた免疫蛍光染色、immunoblottingで解析する戦略も追加した。ELISA kit, 特異抗体のいずれもが高額なので繰越研究費の相当額をこれに充てる予定である。
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