前年度までの研究で、活性酸素(ROS)によるホジキンリンパ腫(HL)細胞の分化、すなわち小型で未熟な細胞からの大型のホジキン、リードシュテルンベルグ(H-RS)細胞の形成はHL細胞の特徴の一つであり、低酸素誘導因子(HIF-1α)がこの分化を抑制する方向に働いていることを明らかにした。さらに未分化なHL細胞ではHIF-1αに加えて抗酸化作用を有するヘムオキシゲナーゼ(HO-1)が強く発現していることを示した。 今年度はHIF-1αによるHO-1の制御と、この制御のROSによるHL細胞分化への関与について検討を行った。HIF-1αを安定化する塩化コバルトはHO-1の発現を誘導し、HIF-1αの阻害剤であるエキノマイシンはHO-1の発現を抑制した。ROSによるHL細胞の分化は塩化コバルトで抑制されるが、この抑制はHO-1の発現阻害下では消失した。さらにHO-1の阻害剤である亜鉛プロトポルフィリン(ZnPP)は、未分化なHL細胞の分化を促進した。この促進は細胞内のROS産生の増加を伴っていた。さらに未分化なHL細胞内は分化したHL細胞内に比べて、酸素が十分にある環境においても低酸素状態にあることが示された。 これらの結果から、HIF-1αは未分化なHL細胞が作り出す低酸素な細胞内環境で安定化して高発現し、HO-1の発現誘導を介して抗酸化作用により、細胞内のROSを低レベルに保って、HL細胞の分化を抑制していると考えられた。さらに、このHIF-1αーHO-1ー低ROSとHL細胞の分化抑制のバランスの破綻は細胞内ROSの増加によりHL細胞の分化を誘導、中型の単核の細胞を経て大型や多核のいわゆるH-RS細胞の形成をもたらす考えられた。
|