研究課題/領域番号 |
17K08733
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中島 典子 国立感染症研究所, 感染病理部, 室長 (60333358)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / インフルエンザウイルス肺炎 / 走査型顕微鏡 / 3次元再構築 / 微細形態 |
研究実績の概要 |
H1N1pdm亜型インフルエンザウイルス(以下H1N1pdm)は、ヒト型レセプターである α2,6-Galシアル酸が表出していない肺胞上皮細胞には感染しないため、原則としてヒト鳥インフルエンザのような原発性ウイルス肺炎は起こさない。一方、レセプター親和性に関与するヘマグルチニン(HA)蛋白にアミノ酸変異 (D222G)のあるH1N1pdmは、肺胞上皮細胞に表出する鳥型レセプターであるα2,3-Galシアル酸に結合し、原発性ウイルス肺炎を起こすことが知られている。 本研究では、HAにD222G変異を持つH1N1pdmに感染し、びまん性肺胞傷害像を呈し非常に多くのウイルス抗原が肺胞上皮細胞に検出されたH1N1pdm 肺炎例の剖検肺組織におけるウイルス粒子と感染細胞の形態を、透過型電子顕微鏡(TEM)と走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて解析した。また、新しい電子顕微鏡技術である連続切片SEM法を用いた3D構造解析により、光学顕微鏡による解析では見いだせなかった重症インフルエンザウイルス肺炎の病態の解明につながる新しい知見を得た。I型、II型肺胞上皮細胞では、インフルエンザウイルスが出芽しているのが観察され、核には索状構造物が見られ、細胞質にはウイルス粒子を含む小胞体が観察された。単球マクロファージの小胞体のなかには、より多くのウイルス粒子が見られ、細胞周囲に多数のインフルエンザウイルス粒子が密集しているのが観察されたが、出芽像や核内索状構造物はみられなかった。 単球マクロファージにインフルエンザウイルスが取り込まれたあと子孫ウイルスを産生するかどうかのエビデンスは得られていない。 2017-2018シーズンの重症インフルエンザによる院外死亡例の病理解析では、4例がB型インフルエンザ、1例がA/H1N1pdmであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子顕微鏡によるインフルエンザ肺炎の剖検肺の解析において、連続切片SEM法による3次元再構築法によりウイルス粒子が肺胞上皮細胞と単球/マクロファージでどのように存在しているかを明らかにできた。当初予期しなかったことは、単球/マクロファージにおいて、ウイルス粒子が細胞内の小胞体中や細胞表面に多数観察されたことである。興味深いことに細胞表面のウイルス粒子の集簇の仕方は均一でなく、方向性があった。また出芽像はみられなかった。 2017-2018インフルエンザシーズンのインフルエンザ関連院外死亡例では、4%パラホルムアルデヒド固定を導入することで、B型インフルエンザウイルス抗原が気管支上皮細胞に検出できた。
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今後の研究の推進方策 |
戻し電顕による解析は検体によって電顕像に差が見られたため、基本的に電顕解析用の検体を新しく得られるようにしたほうがいいことがわかった。またウイルス粒子の同定も形態や大きさのみの判断ではなく、免疫電顕ができるような固定の方法にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
サイトカインmRNAを検出するためのin situ ハイブリダイゼーションの試薬の購入が次年度にもちこしとなったため。今年度に購入する予定である。
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